第122話 女子高生(おっさん)の修学旅行~②日目『予想外のイベント2』


「迷惑かけて済まねぇ……俺は【女島(めじま)真剣滅(まじめ)】っつーモンだ。宜しく頼む阿修凪」


 冗談みたいな名前のヤクザさんの三代目は、隣に座りながら深々と頭を下げた。


〈PM13:20 料亭〉


 現在、料亭では組(ごくどう)の者と組(2年A組)の者とで貸し切りのどんちゃん騒ぎが行われている。迷惑をかけた(これからかける)詫びということで……ヤクザさん達の奢りで俺達も昼食をご馳走になっているのだ。


「おい……アシュナにそれ以上触れたら極道者だろうが容赦せんぞ……」

「お嬢、ご安心を。おかしな動きをしたら俺が直ぐにぶちのめします。なんなりと御用命を」

「うん……ありがとう、とりあえず話が進まないから少し黙っててほしいかな?」


 少し離れた席で、テンマ達に見守られながら俺と三代目は話を進める。正直帰りたかったけど……土下座までさせてしまったのでとりあえず話だけでも聞く事にしたのだ。


「俺らは【琉宮會(りゅうぐうかい)】っつー……沖縄随一の組なんだけどよ……つい最近までは俺の実父(おやじ)が全てを仕切ってたんだ。だが……病気にかかっちまってもう長くねぇ事がわかった……それで体裁(かたち)だけは俺が組を継いで……って、まぁそこらへんの話はいいか。だが、問題が一つあって……」

「問題?」

「この体質の事だ。どーいう訳か……俺ぁ女を視界に入れただけでもまともに生活できねぇ体で産まれてきちまった……まぁ、その辺もどうでもいいか……とにかく、こんなんじゃあ三代目としてまともに示しもつかねぇ。オヤジはそこんとこをえらく心配しててな……つまりだ、お前さんが振りで伴侶としていてくれりゃあオヤジも安心して逝けるし……琉宮會も安泰ってわけよ」


 なるほど、いや、全然なるほどじゃない。何故に偶然出会った極道の妻におっさんがならなきゃいけないのか。

 喩え、振りだとしてもその後に面倒に巻き込まれるに決まってる。そういうのはスリルを求める少女漫画の主人公あたりにやってもらってほしい。


「おお~、俺らにもついに『姐(あね)さん』が出来るってんですかぃ! しかもこんな美女……いやぁ、三代目には一生奥さんはもてねぇと思って諦めてやしたが……」

「馬鹿野郎! 気が早ぇんだよ! まずは女に慣れるために手ぇ繋ぐとこからだ!」


 手下達と三代目は赤くなりながら激しく盛り上がる。やるなんて一言も言ってないし、なに勝手に盛り上がっているのかと焦っていると……コクウとテンマが救いの手を差し伸べてくれた。


「ふざけるな、そんな事を許すわけがないだろう」

「その通りだ、それにその後のお嬢の生活はどうなる」

「心配すんな、振りだけしてもらったら後はこっちで何とか誤魔化しておく……その後の生活になんら支障は起こさねぇと約束する」


 三代目は俺の手をがっちり握って真っ直ぐに眼を合わせてきた。


「ぉお~……姐(あね)さん照れて目を逸らしてますぜ……坊っちゃんは見てくれは男前だからときめいてるんですぜきっと」


 手下がなんか勘違いしている、おっさんは人と眼を合わせる事ができないし……ヤクザが怖いから逸らしてるだけである。


「無茶苦茶言ってるのは重々承知だ……だが、なんとかしてオヤジに安心してもらいてぇんだ……頼む」

「ねぇ、それよりなんでアシュナだと平気なのよ?」


 そこへヤソラが割り込んできた、三代目は顔面蒼白になりながら俺の後ろへ隠れる。確かにこれがヤクザの親分では頼りない……オヤジさんの心配も最もだ。


「そ……そんなの俺が聞きてぇよ」

「けど、なんかさっき言いかけてたじゃない。思う節(ふし)があるんじゃないの?」

「……………あぁ……それがここらへんには神様の悪戯で性別をあやふやにされた『娚人(にゃんちゅ)』って言う伝説があるんだが……その類いかと思ってよ……」

「……はぁ? 伝説? なにそれ?」

「なんでもそいつは『違う世界や時空からやって来た全く別の性別や心が宿る人間』って言われててな……女なのに気質がまるで男のそれだったり……だから、俺もごく自然に接する事ができるんじゃないかと思って……」

「極道の妻やりますっ!」


 まさか、修学旅行中に、しかもヤクザから……今更おっさんの『TS&タイムリープ』した原因の真相に迫るかもしれないイベントを発生させられると思っていなかった俺は──誤魔化すように、三代目の頼みを請けおってしまった。

 

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