第111話 女子高生(おっさん)と新たな出会い⑤~【未来のアイドル】


〈2-A教室〉


 その娘は突然やって来た。

 前世では一切登場しなかった人物──完全なる初対面にも関わらず、おっさんはその娘を知っていた。


「えー……今日から一人転入生が一緒になるからみんな仲良くするように。ではまず自己紹介を……」

「えっ……!!?  【七海(ななみ)八天(やそら)】ちゃんっ!?」

「えっ、アシュナ……知り合い?」


 驚きのあまり自己紹介よりも先に、思わず声を張り上げてしまう。そのくらいの衝撃だった。

 何故ならその娘は……これから始まる『アイドルグループ争乱時代』の代表的存在となる……秋葉原発祥の劇場アイドル〈BUBUKA四十八手〉の不動のセンター【七海八天】その人だったからだ。

 外国人のような綺麗な琥珀色の髪に瞳がその美白を際立て──更にはツインテール、そしてアイドルらしからぬ傲岸不遜な態度とたまに見せる恥ずかしがり屋な一面……そう、いわゆる昔懐かしツンデレがこの時代にマッチしてとびきりの人気を得るのだ。


 しかし、アイドルブームが起こるのは来年以降──この時代ではまだグループの結成すら為されていない。つまり、彼女はまだ一般人であるためにそれを知るのはおっさんだけだった。


「そういうアンタは噂の小説家【波澄アシュナ】ね、成程……確かに相手にとって不足はないわ。アタシの名前を既に知ってるなんて……情報収集もお手のものってわけ」


 ヤソラちゃんは意味のわからない事を言っていたが、興奮した俺は構わず握手を求めた。

 しかし、ヤソラちゃんは俺を睨んで……その手を払い除けて言った。


「勘違いしないで、アタシはあんたと仲良くするためにわざわざ転校してきたんじゃないの。アタシのライバルとして相応しいか見極めにきたのよ……覚悟しなさい、一番のアイドルになるのはこのアタシよ」


 ヤソラちゃんは険しい表情をしながら、唇が触れ合いそうになる程におっさんに顔を近づけてそう言い、席に着いた。

 おっさんも席につくと、前の席のヒメが少し怒気を孕んだ様子で心配そうに声をかけてきた。


「……なにあの子、失礼すぎじゃない? アシュナ大丈夫?」

「えへへ……あのヤソラちゃんとキスしそうになっちゃった……うひひ」

「………全く気にしてないようで何よりだよ……」


 未来のトップアイドルとあんな至近距離で顔を突き合わせれるなんて一体握手券何万枚分だよと浮かれている俺を余所に、ヒメはなにか心配そうな顔をしていた。


「来て早々アシュナにあんな態度とってあの子大丈夫かな……?」

「うん? なんのこと?」

「いいの、アシュナは気にしないで」


 その時はなんのことかわからなかったけど……ヒメの心配の意味──それが如実に姿を現したのはすぐの事だった。



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