第112話 女子高生(おっさん)と新たな出会い⑤~【未来のアイドル】2


〈廊下〉


「ねぇ、あの子だよ例の……アシュナちゃんの握手を払ったっていう……」

「あり得ないよね、アシュナちゃん可哀想……」

「なんでこんな時期に転校してきたんだろうね」

「そんなんどうでもいいよ、とにかく近づかないでおこ」


 移動教室──廊下にて、前を歩くヤソラちゃんとすれ違う生徒達が口々に井戸端会議を始める。転校してきて数時間のうちに早くも悪い意味で有名人と化してしまった【七海八天】ちゃんはそれでも一人、堂々と廊下を闊歩する。


「………」

「どしたのアシュナ? なんか難しい顔して……」

「……うん、ヒメが心配してたのってこーゆー事だったんだね……」

「あー、うん。でもアシュナが責任感じる必要はないよ? あの子……あたし達とかミクが声かけても『うるさい』の一点張りでさ……こう言っちゃ悪いけどこうなるのは当然っていうか……誰とも仲良くする気がなさそうな感じだしね」


 確かに、コミュ力お化けのヒナやミクでさえ数時間で匙を投げるほどの排他的態度──これでは転校初日にこうなるのも致し方ない。更にこの学校では既に恐ろしいまでの【アシュナ信仰】が蔓延している、それに敵対するとなると……おっさんの気持ちがどうであれ彼女の居場所はここにはなくなってしまうかも知れない。

 だが、おっさんは知っている。

 彼女がツンデレ娘であること……そして、そのデレた姿が多くの人々を魅了する程の破壊力がある事を。


「ねぇヒメ、悪いんだけど今日のお昼はちょっと抜けるね」

「……! うん、わかった。アシュナって本当変わったよね、入学当初が嘘みたいに……頑張ってね」


----------


〈お昼休み〉


 お昼休み──移動教室から戻り、早速ヤソラちゃんと接触を図ろうとするも……ヤソラちゃんの行動は早く、先に姿を消したにも関わらず……教室にその姿は無かった。

 取ったであろう選択肢は……『昼飯を食べない』か『購買に行った』か『お弁当持参で何処かへ食べに行った』。しかし、おっさんは抜け目なく……事前に彼女の行動を目で追っていた。席につき鞄を開けた際に手提げ袋を詰め込んでいたことを。つまりはお弁当持参……となると『教室以外で食べる』という答えが導き出される。


 そこからは時間との戦いだった。

 お昼休みは一時間──移動時間を考慮すると……おおよそ50分程度の間に彼女を見つけ出さなければならない。探す場所は限られる……悠長にしている暇はない。場当たりでしらみ潰しをする時間はないのだ。


(……この学校にぼっちスポットは結構ある……彼女の性格から推察するに……自尊心(プライド)が許さないような場所は回避するはず……と、なると──)


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〈???〉


 ──導き出される答えは、おっさんには明確だった。

 彼女は型(かたち)は違えど……と似ている。故に、思いつく場所も同じはずである。


「──っ!?!?なっ……!?!?」


 絶句する彼女、それもその筈……に入り込もうとする彼女を見つけ、瞬間、急いで同時に駆け込んだからだ。


「……はぁっ……ごめんね? 以前の私もこんな事されたら嫌だったけど……今の私は可愛い子とこんな風になるのは興奮するから……ちょっと踏み込ませてね?」

「なっ……なにわけわかんない事言ってるのアンタ!? 頭おかしいんじゃないっ!? ここっ……トイレよ!?」


 そこは昼休みには誰も使わない離れ教室用の女子トイレの個室。前世では隣の男子トイレが俺の昼休みを潰す場所だった。ならば、一年生前半のアシュナはきっとここを使っていたはずだと推測したら見事にビンゴだった。


 生徒達の声が遠くに響く……二人きりの空間に、おっさんは後ろ手で錠をした。

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