第3話
制服が夏服になった。
私は夏が嫌いだ。理由は暑いから。暑いと余計に死にたくなる。したたり落ちる汗や汗ばんだ体にまとわりつく服が不快だ。
それに夏服より冬服のデザインが好きだ。
そんな頃に席替えが行われた。私は運良く窓側の1番後ろの席となった。前の席より後ろの席が落ち着く。前の席だと後ろの人達からなんて思われているか気になってしょうがない。悪口を言われている気がしてしまう。何度も振り返り確認したくなる。だが授業中はそんなことできないので余計に不安になる。
荷物を整理していると
「よろしくね」
と声をかけられた。新しい隣人の園田さんだ。
「よろしくお願いします」
と私は返した。園田さんはそれに対し微笑み、席に座った。とても姿勢が良かった。艶やかな黒髪は背筋にそうようにまっすぐと伸びていた。
園田さんは内部生だ。この学校は幼稚園から大学まで併設されている。小学部から中学部に上がってきた生徒を内部生、中学部から入ってきた生徒を外部生と呼んでいた。内部生は勝手知ったる学校のためかお金持ちだからか気が強かったり賑やかだったり派手だったり、怖い印象がある。正直苦手だ。そのため隣人が内部生の園田さんというのは少し不安だった。
席替えから数日、園田さんは内部生といっても接しやすい人だと気付いた。物静かで落ち着いた人。加えて美人で優しく礼儀正しいため人気者だった。彼女の周りにはいつも人がいた。席替え当初、私は横からその様を眺めていた。しかし園田さんが私をその輪に加えようと声をかけてくれたことで、私も園田さんを囲む1人となった。
友人と言って良いのかはわからない。私は正直友人というのがよくわからない。少なくともこの学校で友人だと自信を持って言える人はいない。小学校には友人と言える人が2人いた。他にも話す人はいたが友人と言ったら相手に失礼なのではないかと思い、自信を持って友人だと言えるのは2人だけである。
「おはよう」
園田さんは毎朝会うなり挨拶をしてくれた。私は挨拶というのもよくわからない。私なんかが挨拶をしたら迷惑なんじゃないかと考える。挨拶をされる分には嬉しい。だから園田さんの挨拶は嬉しかったし、そのおかげで私から園田さんに挨拶をすることができた。
「ねえ、交換日記しない?」
ある時、園田さんが言った。この時、交換日記はクラスでちょっとしたブームになっていた。
「私と?」
「うん、そう。2人で」
私は人を誘うのは苦手だが誘われるのは嬉しかった。なぜ2人なのか、なぜ私なのか気になる点はあった。そもそも園田さんは他の子達と交換日記をしていたはずだ。だが私には特に断る理由はなかった。
「いいよ」
「じゃあ私から書くから待っててね。ノートももう買ってあるの」
と言って園田さんは、空の写真がプリントされた小さいノートを見せながら微笑んだ。園田さんの笑顔は上品で絵画みたいだ。
他の子から聞いたのだが、園田さんの家はお父さんが政治家でかなりお金持ちらしい。内部生の中でも上位のレベルらしい。また園田さんはバレエやピアノ、ヴァイオリン、お花など色んなお稽古事をしている。それにも関わらず成績も優秀。素行は勿論問題なし。絵に描いたお嬢様だそうだ。そんな人が本当にいるのだなと思った。
そんな園田さんがどんなことを交換日記に書くのか私は楽しみだった。
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