第2話
初めて死を知ったは保育園の頃だ。父方の祖父が死んだ。泣く祖母を不思議な気持ちで見ていた。
祖父に対して好きも嫌いもなかった。祖父は祖父だった。会うのは年始くらい。その年始は親戚が一堂に会する。よく知らない大人や子供が沢山いて、あまり好きではないメニューが食卓に並ぶ。この集まりが嫌いで仕方なかった。私は部屋の隅の方でゲームをして時間を潰していた。私にはお年玉をもらえる以外価値のない集まりだった。そんな集まりの中心にいたのが祖父だった。
祖父が亡くなってからはその集まりの規模も小さくなった。もらえるお年玉は減ったが、前よりも居心地が良くなって嬉しかった。
そのせいだろうか、私が死を魅力的に思ってしまうのは。
本当は自殺がいけないことなのはわかっている。死を望むことが良くないのもわかっている。しかしそれ以外に自分の気持ちを満たす手段がないのだ。麻薬ってこんなものなのだろうか。ちょうどこの前、保健の授業でやった。麻薬を使うとどうなるか。一時的に気持ちよくなる代わりに脳に悪影響があるらしい。私は死を思うことで満たされて、その代わり人として大切な倫理観を失っていく。だがどうして死ぬことはそんなにいけないのだろうか。生きたくても生きられず死ぬのはとても気の毒だと思う。けれど私が求めている死は違う。私自身が欲しているものなのに。
一度カッターを左手首に当ててみたことがある。あれは中学受験が辛くて仕方なかった時だ。少し引いてみたが何の傷もつかなかった。もっと力を入れなければならないんだと知った。死ぬということは、体を傷つけるということは、とても力と思い切りのいる作業なのだ。私にはそれができる勇気がない。自分って駄目だなと思う。もしかしたら誰かにかまって欲しくて死を考えているのかもしれない。たまにドラマにある付き合ってくれないなら死ぬという台詞。あれに近いのかもしれない。しかし誰にかまって欲しいのだろうか。わからない。
みんなはこんなことを考えずに生きているのだろうか。私だけこんなことを考えているのだろうか。40人分の机が並べられた空間で私1人だけが死を欲しているのだろうか。みんなは死を思わずに笑顔で楽しく平和に1日を過ごすことができるのだろうか。私にはその方が恐ろしいし信じ難かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます