二人がホテルを出たのは、早朝五時だった。明け方の繁華街に人影はない。幸子は、他人の視線に怯えずにすむと気を緩めていた。だが、浩一は注意を怠っていなかった。幸子は不意に腰を強く引き寄せられた。 

 浩一が耳元にささやく。

「きょろきょろしないで聞け。通りの外れの電信柱。陰に男が二人いる。知り合いか?」

 幸子は言われた方向に目だけを向けた。確かに人影が見えた。距離は離れているが、誰かを監視しているような様子が感じられる。服装は、ヤクザを思わせる――。

「よく分からない。でも、恐そう……。タクシーを追ってきたの?」

「ずっと幸子が見張られてたんだろう。たぶん、下っ端のヤクザだ。美樹が雇って俺を尾けさせているんだろう。逃げるぞ」

「どうやって?」

「走る」

 幸子は浩一に手を取られ、引きずられるようにして走った。

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