3
毛皮の衿が付いた高価そうなレザーコート、素足にロングブーツ。自分がこの世の中心だと言いたげな、自信に満ちた態度――。重そうなドラムバッグを下げている他は、あの頃の美樹と同じだ。
幸子はうめいた。
「美樹ちゃん……」
美樹はじっと幸子を見つめる。
「幸子。ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって……」
洋が叫ぶ。
「幸子のお父さんは⁉」
美樹は泥がついたブーツのままリビングに入ると、玄関のドアを閉じた。幸子を見つめながら近づくと、ドラムバッグをテーブルの下に置く。かすかに溜め息をもらし、首を横に振った。
「急用が入って出られなくなったの」
洋は動揺を見せた。
「何だって⁉ それじゃあ幸子さんに分かってもらえない」
「私の責任じゃないわよ。向こうの都合なんだから」
「連絡してくれればよかったのに」
「圏外だったの。でも、着替えは預かったわ。古いものばかりらしいけど。靴も用意してもらった」
その時、幸子の鼻孔に強い香りが飛び込んだ。事件の香り――柑橘系のコロンだ。
〝まさか⁉ 美樹だったの⁉〟
幸子は美樹の姿を目にして初めて、自分に襲いかかった不幸の正体を理解した。
〝父さんが来るなんて、嘘よ。浩一さんも関係ない。美樹なんだ……洋さんを奪った美樹が、また私を踏みつけようとしているんだ……〟
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