第15話

 あの時、差し出してきた封筒の中身は白紙であった。それを知ったのは五十回目の夏休みを過ぎた頃だった。

 ワタルが連れ去られないように一緒に帰る。今回は公園に向かうのが遅くなってしまったが、彼からタイチの家に二人で向かう提案をしてくれた。

 サワが車に撥ねられないようにする。真っ先に笑いだして注意を引くも思ったより効果が出てしまって、しばらく頬が痛かった。

 ナナが痴漢に遭わないようにする。ヤイチに足を引っかけられて内心焦ったが、なんとか尻ポケットからはみ出ていたハンカチを抜き取って、サワも公衆トイレに行かせる。ナナの時がいちばん緊張する。

 三人の体と心が死なないように、あれやこれやと画策していると必ず決まって邪魔が入る。【タイチ】に成りに来たというソレが言うには、夏休み中にワタルは行方不明になって、サワは死んで、ナナは家から出られなくなる。そうなるために来た、そうならなければいけないのだと叫んだので頭突きを返したのは、確か十五回目の時だっただろうか。

 回数はどうだっていいが、【タイチ】であるのは自分である。ワタルとサワとナナの共通の友人であるのは、一人で充分。


 その場所いすは僕だけのものだ。

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