第16話

「そういや、夏休み明けに転校生来たよな」

「アリスちゃんでしょ? 帰国子女の」

「可愛かったよね〜」


 ファミレスを出て、小学校時代によく来ていた公園に行こうという話になった。

「思い出した! 夏休み終わったらタイチが『おれ』って言うようになっちゃったからショックだったっていうか」

「そう! ワタルの悪影響受けちゃったか~ってサワと話してたんだよ?」

「えぇ・・・」

「いや、濡れ衣じゃん!?」

 例の奇妙な写真のことはアルバムが閉じられてからすっかり忘れ去られてしまったようで、サワの鞄に仕舞われてから誰も話を蒸し返すことはなかった。

「あーそういや明日バイトだわ」

 昔のようにサワとナナがベンチに座り、ワタルとタイチで鉄棒に寄りかかる。心底、嫌そうな顔をしながらワタルは鉄棒に腕を引っかけていた。

「じゃあ、もう帰る?」

「良いんじゃない? そろそろ放送かかるでしょ」

 サワの言う通り、夕方五時、子どもたちに帰宅を促す放送が町内に響き渡る。またね、と手を振りそれぞれが帰路につく。


 ――― ところで、運の収支は必ずきっかり合うように世界はできているらしい。


 あと、電柱を二本通り過ぎれば家に辿り着くはずだったタイチは、背中を刺されて道路に倒れた。その後、何度も刃物をタイチの背中に突き刺しながらブツブツと何かを呟く声を拾ってみると、どうやらサワのストーカーのようだった。つまるところ、妄執の末に及んだものだろう。どうでもいいが。

 こうして、あの時、誰も消えなければ死ななければ再び、たったひとつの座席なまえを奪い合う夏へ戻るために死にイベントが発生する。毎回、突然のことなので慣れはしないし痛みの中、眠りにつくので目覚めが悪い。嫌だなぁ、と思いつつ血に濡れたアスファルトの上でタイチは目を閉じた。

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