第14話

 嘔吐くヤイチが尻餅をついた時、ドアが開いた。夏の熱気と共に入ってきたのは母と妹ではなさそうであった。足音が明らかに二人以上聞こえる。


「No.081、


 タイチは首が解放された時点で目を閉じてしまった。もう体を起こして状況を確認し見届けるほどの体力も気力もなく、耳を傾け音を拾うことくらいしかできなかった。

「は!? クソッ離せ!」

 ヤイチが悪態をつきながら暴れるも、抵抗むなしく拘束される様子が聞こえる。全て声や足音などから推測しているので、想像でしかないが。

「お前がいるからおれが【タイチ】になれねぇんだよ! お前のせいで! おまえ、何なんだよォ!!!!」

 真っ黒なスーツに身を包んだ数人に玄関から引きずり出されたヤイチは、ドアが閉まっていく中、タイチがゆっくりと顎を動かすのを見た。


「ばーか」

 真っ直ぐに伸ばした腕の先にはピースサイン。金属が噛み合う音を立ててドアが閉まった。


 こうして、【僕】は【おれ】になりました。

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