第12話
家に帰っても今は誰もいない。父は仕事中だし、母は通院中の身で今日は受診日だとカレンダーに書いてあった。妹はそれについて行っているので、夕飯までの一、二時間は邪魔されずに横笛の練習に当てられるだろうと思いながら、タイチは夕日が照り返す道路を駆けていく。
公園を通り過ぎたところで歩きに移行する。息を吐き出し続けているせいで舌と喉が乾く。息が整ってきた時、家の前に誰かが立っているのに気づく。ヤイチだった。
「どうしたの?」
「今日、みんな公園に来なかったからどうしたのかなって・・・」
もごもごと服の裾を伸ばしながらヤイチは話す。こうして2人で会話するのは出会ってから初めてのことだった。
「公民館にいたんだよ。夏祭りの日が近いから」
「そっか。えっと、これ、おれの母さんからなんだけど。お家の人いる?」
そう言ってヤイチは封筒を差し出してきた。
「また後日、挨拶に来たいからって中身だから。あの、他の三人にも渡してあるから」
「うーん。・・・もう少しで帰ってくるし、中に入りなよ」
タイチは喉が渇いているので一刻も早く家の中に入りたかった。目に汗が入らないように片腕を額に当てながら玄関のドアを開ける。ヤイチが後に続いて入れるように、大きくドアを開けたところで、強い衝撃が背中に走った。
「!」
ぐらり、と傾いた視界はすぐに暗くなりフローリングと顔が衝突する前に掌を打ち付ける。片手に横笛をにぎっていたので、指の関節が砕けたかとも思った。人体は意外と丈夫に出来ているおかげで関節は砕けていなかったが、俯せに倒れたタイチの背にヤイチが馬乗りになったため、身動きが取れなくなってしまった。
そのままタイチは汗に濡れた髪を鷲掴みにされ、額を床に叩きつけられる。漫画に出てくるような低く重い衝突音が廊下に響き、頭蓋骨の中を痛みが暴れ回る。突然のことにタイチは比較的、自由な下半身を縦横無尽に動かし、汗で滑ったヤイチの手が髪から離れた瞬間に握りしめていた横笛を振り上げた。
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