第9話

 翌日、公園前に設置されている掲示板に不審車情報が貼られていた。


 その日はサワがサッカーボールを持ってきていた。家の蔵から見つかったので使う人を探しているという。

「うーん。いる人見つからなかったらどうすんの?」

「児童館とかに寄付かなってお母さん言ってた」

「ふーん」

 今日はナナとワタルが公園に来ていないのでサッカーボールの件は保留になった。サワは手に持ったままボールを、くるくると回しているうちに何か思いついたのか、「はい、ヤイチ!」と突然ボールを放り投げた。

「え、え!? うわぁ!!」

 いきなり飛んできたサッカーボールに驚いたヤイチは、ぎゅっと目をつぶって両手で弾き飛ばした。力の限り空中に押し出されたボールは大きな軌道を描いて公園の外に着地した。車道で何度か跳ねた後、転がって行く様子を3人で眺めていた。

「…ふっ、あはは!」

「んふははは!あー、もうヤイチ!」

「へっあ、ごめ、ごめんっふは、あははは!」

 そして一斉に笑い出し、止まらなくなってしまった。ただでさえ暑いのに苦しいほど笑ってしまうと本当に苦しくて、でも笑うのが止められなくて頬が痛い。

 3人でヒーヒー言いながら、路上に投げ出されたボールを取りに行こうとなんとか足を動かす。笑いすぎた肺を正常に戻すために大きく息を吐き出したタイチは、先を歩くサワの背中に手を伸ばした。

「あ、虫」

「キャーーーーーーッ!!!どこ!?とって!とってぇ!!!」

 文字通り、飛び跳ねるサワに「もうとったよ」と言うつもりが吹き出してしまい言葉にならなかった。住宅街に笑い声と抗議の声が反響する。


 公園の前をトラックが通り過ぎ、路上のサッカーボールを跳ね飛ばす。入道雲が見守る下、騒がしい思い出が1つ加わった。

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