第8話

「サワとかナナのほうが上手く育ってるんじゃないの?」

「ナナん家は父ちゃんがいたら入れないだろ」

「そもそもね」

「んで、サワん家は・・・アレ、あの、じいちゃんが無理」

「あぁ・・・わかる」

 庭に繋がる扉を開けて、額に日光を、背中に冷気を浴びる。サワの家はこの辺りで一番大きい家だ。両親と祖父母と、あと親戚が何人か一緒に住んでいると聞いた。前に遊びに行った時、四人の中で一番背が高いサワを見て『可哀想に』と言ったジジイのことがタイチとワタルは苦手であった。

 クッション性に優れたケースからタブレット端末を取り出して、ワタルは上下左右に角度を変えて鉢から伸びる茎や葉にシャッターを切る。何枚か葉の先端が茶色くなっているのが、ちょっと恥ずかしかった。

「よし、こんなもんかな。サンキュー」

 画面をスクロールするワタルの横に妹が座り、一緒に取れ高を確認する。タブレット端末をケースに仕舞う様子を見て母が台所から出てきた。

「ワタルくん、この後何か用事ある?」

「? 無いです」

「じゃあ、まだお家の中にいなさい。今すっごい暑くて警報出てるの。お母さんにはこっちから連絡しておくから、ね?」

 確かに、毎日が今年一番の暑さと言われている。さっき写真を撮ってる時も痛いほど暑かった。

「まだいなよ。一緒にゲームしよ」

 タイチは母からの提案に返事を決めかねてるワタルに充電器から抜き取ったコントローラーを渡す。

「しょ、しょうがねぇな…!あ、じゃ、まだいます!」

 普段は父とやってるゲームだが、たまには同級生とやるのも良いだろう。妹にはまだ操作が難しいだろうし。


 こうして冷房が効いた部屋でゲームに明け暮れ、ワタルの母が迎えに来るまで昼寝をしていたせいでタイチはその夜、全く寝付けないでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る