第十五話 「面接」

「・・・礼文!」


「ああ、デスク。」


「ど、どうだった?」


「いや・・・・」


隆和が、3Fの第一編集局から


少し離れた場所にある


小部屋の前の長椅子に座っていると、


その部屋の中から自分の部下である


"礼文 健一"


が出てくる


「まあ、別に、当たり障りない事


 聞かれただけですよ。


 「日本ではどういう仕事してた?」だとか


 「ロシア語は話せるか」だとか...


 そんな感じでしたね。」


「・・・そうか...


 じゃ、じゃ――」


「―――次の人、入って」


「ああ、俺か?」


"ガサッ"


「全く... 腹が減ってしょうがないよ」


"ガサッ"


長椅子に座りながら礼文に向かって


面接の内容を聞こうとしていると、


脇に座っていたこれも自分の部下である


"中根 学"


が、どこに隠していたのかは分からないが


ロシア風の肉饅の様なパンの食べ残しを


鞄にしまいながら立ち上がる


「お、おい、中根。」


「・・・何スか」


自分が太っている事に優位性を感じているのか、


堂々とした態度で中根は長椅子に座っている


隆和を見下ろす


「お前、ほっぺたに


 肉饅の喰いカスが付いてるぞ。」


「・・・あ、ああ」


"スッ"


「・・・残したりしたら、もったいないスからね」


「(・・・・)」


中根の口の辺りに、おそらく


食い残しであろう肉饅の食いカスが


付いている事を指摘すると


中根はそれを人差し指で掬(すく)い


自分の口の中へと放り込む


「・・・食いモンてのは、


 食える時に食っとかないと


 どうなるか分からんスよ」


「・・・・」


"ガチャッ"


目の前の扉を開けると


威厳の様な物を感じさせながら、


そのまま部屋の中へと消えて行く....


「(よく分からんヤツだ...)」


頼もしいのか、それともただ


太っている事から来る優越感を持っているのか


堂々とした態度の中根を見て


少し、気分が落ち着いた様な気がする


「(面接か・・・)」


"カッ カッ カッ カッ...."


「あ、礼文。」


「・・・・」


脇にいた礼文がこの場から


どこかへと向かい足早に立ち去ろうとする


「ど、どこ行くんだ?」


「ああ、どうも、僕はロシア語が話せるから


 軽く、編集局の同僚に挨拶して回れって


 スサケフスキ支局長が言ってたので...」


「そ、そうか。」


「・・・・」


隆和を一瞥(いちべつ)すると、礼文は


そのまま編集局の方に向かって歩いて行く


「・・・・・」


一人、部屋の前に残された隆和は


面接と同時に、昨日クリアする事ができなかった


携帯ゲーム機の二面の次のステージ、


三面の事を考えていた....


「(三面のボスは、多分ポーションとか薬草を


  使わないとクリアする事が


  できないんだろうな...)」

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