第十三話 「局次長」

"ピコ ピコ"


「ピロリロリン♪ ピロリロリン♪」


「(・・・・局次長...)」


"松坂"


部下全員が自分の部屋に入ったのを確認すると、


隆和は林から渡された紙に書かれていた


自分の部屋番号の部屋へと入る。


「(・・・・・)」


"ドサッ"


荷物を置くと鞄の中から


黒い筐体(きょうたい)の携帯ゲーム機を


直(す)ぐに取り出し、間を開けず


その携帯ゲーム機のスイッチを


OFFからONに切り替える....


「(・・・・・)」


♪ ピロリロリン ピロリロリン


「(・・・・?)」


突然、携帯電話の着信音が鳴り


画面に目を向けると


そこに日本、日朝新聞本社、


隆和の直属の上司である


"松坂 保夫"


の名前が表示されている


「(・・・・・)」


"スッ"


一瞬、ゲームをいじっていた手が


"終話ボタン"に向かって伸びかけるが、


思いとどまると隆和は


人差し指を通話ボタンの方に伸ばす


「・・・もしもし」


「おー、江母井! もうロシアには着いたか!」


「...はい」


「どうだ!? ロシアは!?」


「(・・・・)」


電話の反対の手に持っている


携帯ゲーム機の様子を気にしつつ、


上司の松坂の言葉に歯切れよく返事を返す


「いや、全部順調ですよ。」


「・・・そうか。


 もう、支局長のスサケフスキには会ったのか?」


「―――ああ、会いましたよ」


"ピコ ピコ"


アクションゲームの操作をしつつ、


明るい口調で、はっきりと返事をする


「・・・かなり驚いたろう?」


「―――いや、 そんな事もないですね」


"ピコ ピコ"


「(・・・おっ イルダマズラじゃねえか)」


「―――ロシアってのは、日本と違って


 会社の人間や環境にも


 かなり差があるからなー...」


「―――そうなんですか?」


"ピッ ピッ"


通話をしている最中に


携帯ゲーム機のキャラクターが


敵とぶつかってやられそうになるが、


人差し指の動きだけで敵のキャラクターの


動きを器用にかわす


「・・・他に連れてった新入社員の方はどうだ?


 みんなうまくやってるか?」


「(―――おっ やべえ 囲まれた)


 ―――全く問題ないです」


「・・・そうか。」


"ピコ ピコ"


「部下たちもしっかりしてますし、


 モスクワ支局の社員も


 みんないい人ばかりです」


"シュンッ"


キャラクターが強烈なビームを放つ


「そうか...まあ、しばらく、


 お前は右も左も分からんだろうが、


 とにかく上手くやってくれ!」


「・・・恐縮です」


「ハハッ!」


部下の殊勝な態度に感心したのか、


上司の松坂は電話の向こうで軽く笑い声を上げる


「―――あッ!」


"チュドンッ"


「・・・・どうしたんだ?」


「(ちっくしょー 話しかけるから


  操作ミスっちまったじゃねえかよ...)


  何でもないです。 少しアパートの気配に


  違和感を感じて、アパート内の様子を


  伺っていましたが別段これと言って


  問題はないようです。」


「―――そうか....」


「―――完全に平気です。


 (チュドンッ 行けっ 行けっ!)」


「―――頼もしいな。


 ・・・まあ、分からん事も色々あるだろうが


 そっちでもしっかりやってくれ!」


「―――恐縮です」


「....返事はいいな。 オマエは。


 それじゃ、頼むぞ! ピッ」


「(・・・・・)」


"ピコ ピコ ピコ"


暗い、簡素な造りの部屋の壁際に置かれた


ベッドの上で手の中に収められた


携帯ゲーム樹の画面だけが


鈍く光を放ち続ける.....


「よし――! 二面クリアだ」

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