第十一話 「仮想通貨」
「Эй, тебе так не
кажется?
(なあ、そう思わねえか――-?)」
"ガタ"
「で、デスク、この人―――」
冷静さを取り戻したのか、
スサケフスキは自分の椅子に座ると
机の前に並んでいる
日朝新聞の局員たちに目を向ける
「На этот раз,
(今回の―――)」
"グビ"
「支局長、コンカイ―――」
ウォッカを呷りながら目の前で
喋り出した男を見て、
脇にいた林がその言葉を
隆和達に向かって同時通訳し始める
「На этот раз и Темера
Нитиаса,
(今回の、てめぇら
ニチアサの事もそうだ―――)」
「―――と言ってるネ」
「Ой, Ничиаса, скажем
так, власть денег
купила эту компанию
«Искра Комсаморец»,
и я не знаю, что это
такое, но это как
Чиндонья!
(おめぇら、ニチアサは、金の力に言わせて
このイスクラ・コムサモーレツ社を買収し、
何が何だかよく分からねぇが、まるで
"Chindonya"!
"チンドンヤ"みてぇじゃねえか!)」
「・・・・!」
激しいゼスチャーでスサケフスキは、
体を揺らしながら隆和に向かって
大声で怒鳴りつける!
「・・・・!」
「Арабская газета
на Алгаэ-ку?
(藻須区輪亜部新聞だと....?)」
"パンッ!"
「Собираетесь ли
вы давать интервью
в России с таким
шутливым
названием ...?
(お前、そんなふざけた名前でこのロシアで
取材活動をするつもりか...?)」
「・・・・・」
"藻須区輪亜部新聞(もすくわあべしんぶん)"
ロシアにあるイスクラ・コムサモーレツ社を
買収した東京の日朝新聞本社は、
イスクラ・コムサモーレツ紙のイメージの
刷新を図るため東京本社の編集局次長、
隆和の直属の上司である
松坂 保夫の考えによりその社名を
イスクラ・コムソモーレツ社から
日本語の漢字表記である
藻須区輪亜部新聞社へと変更していた...
「し、しかし、それは、
本社の意向でそうなった訳で...」
「Гунн,
(・・・・フン、)」
"パンッ"
林が通訳した言葉を聞くと、スサケフスキは
軽く鼻を鳴らし、再び新しくできあがった
藻須区輪亜部新聞の紙面を片手で小気味よく叩く
「Вы знаете историю
этой компании
«Искра Комсаморец»...?
(おまえ、このイスクラ・コムソモーレツ社の
歴史は知ってるか...?)」
「・・・!」
隆和の表情が固まる
「(歴史・・・・)」
"おい、お前少しは向こうの事とか、
こっちで調べてからロシアに行けよ!"
"了解です!"
「(この会社の、"歴史"....!)」
「Привет?
(なあ....?)」
「(・・・・!)」
何か口に出そうとするが、言葉がまるで出ない
「С этого момента
ты будешь членом
этого Абэ Симбана
из Алги-Уорд ...?
(お前は、これからこの、藻須区輪亜部新聞社の
一員になるんだろう...?)」
「・・・・」
「Но вы говорите,
что не знаете истории
этой компании
«Искра Комсаморец» ...
(それなのに、お前はこの
イスクラ・コムサモーレツ社の歴史を
知らないと言うのか...)」
「(・・・・!)」
"ゴクリ"
「Отвечать ...
(答えろ・・・)」
隆和の思考が止まる
「(歴史・・・・)」
スサケフスキから、この新聞社の
概説に関して問われるが
隆和は日本であらかじめロシアについて
下調べをする様にと言われていた松坂の言葉を
適当に聞き流し、このロシア支局への
出向の話を聞いてから一月(ひとつき)程の間、
ひたすら仮想通貨のマイニングを行ったり、
インターネットの掲示板に匿名で
誹謗中傷の書き込みを行ったりして
時間を潰していた...
「(この会社の、歴史....)」
「О, в какой-то
степени я понимаю
(あ、ある程度なら分かる)」
「礼文....」
何も喋らない上司を見かねたのか、
脇にいる礼文が口を開く
「Я слышал, что эта
компания
«Искра Комсаморец»
впервые была издана
в 1914 году и
изначально была
политической газетой
коммунистической
партии.
(このイスクラ・コムサモーレツ社は、
初刊が1914年程で、元は共産党よりの
政治新聞だったとか...)」
「・・・・」
礼文がロシア語でスサケフスキに向かって答えると
スサケフスキは妙な顔を浮かべ
再び自分の席へと戻って行く...
「ガタッ」
"キィッ"
「...Во всяком случае,
я не знаю, Ничиаса
ли это, но здесь, в
России, он не уважает
Россию, он не может
позволить ему
работать ...
(・・・とにかく、ニチアサだか
何だかは知らねえが、ここロシアじゃ
ロシアに対して尊敬がねえ奴は
仕事させる訳には行かねえ...)」
"キィ"
自分の座っている椅子を軽く回すと、
スサケフスキは日朝の社員たちと向かい合う
「Посмотрим, какие
парни из "Nichiasa" ...
("ニチアサ"
の奴らがどんなもんなのか、
とくと見せてもらおうじゃねえか...)」
「・・・!」
「・・・・っ」
「ひ、ひぃっ...」
「(・・・・)」
「На данный момент
вы будете проживать
в нашем общежитии
для сотрудников. Ой.
(とりあえずお前らは
ウチの社員寮に寝泊まりする事になる。
―――オイ。)」
「―――да!」
スサケフスキが軽く指で合図すると
脇にいた林が机の前から足早に
どこかへと向かって歩き始める....
「―――こっちネ。」
「・・・・」
訳も分からず、林の後を追うと、
隆和たち日朝新聞の局員は
余り広くはない編集局の中を横切って行く
「―――社員寮ってここから近いのか?」
「明日から仕事って事?」
"カッ カッ カッ カッ....
「(・・・・・)」
他の社員たちが出口に向かって
歩いて行くのを前に見ながら
「(・・・・)」
隆和は、ロシアの仮想通貨を
どの様にマイニングするか考えていた...
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