第七話 「藻須区輪亜部(もすくわあべ)新聞」

「あ、ここが、編集部ネ」


「ここが....」


"カッ カッ カッ カッ....


30分程列車に揺られ、駅を乗り換えながら


隆和たちはモスクワ駅を降り、


そこから十分程歩いた古びたビルの3Fにある


部屋の前で立ち止まる


「もう、時間、かなり遅いネ」


「(・・・・)」


林の言葉に隆和が携帯の時計を見ると、


時刻は


"20:14"


と表示されている


「たぶん、このちかんなら


 編集長...いえ、今は支局長ネ。


 支局長イル思うけど...」


「ガチャ」


「・・・・」


「うわー そこそこ、人、いますね」


「(・・・・)」


"カタ カタタ"


「Вау, здесь так


 много людей

(おい! ペトロフはまだ帰ってこんのか!)」


「・・・・」


"ガタッ!


"バササッ"


「Иванов ... это


 бороздка между ними,


 я никогда не могу


 допустить ...

(イワノフ...それは、決して


 認める事のできない


 二人の間に出来た溝だわ....)」


「(局員の数は、あまり多くは無いな...)」


林に従い編集局のある


広い三十畳ほどの部屋の中に入ると、


そこには机が隙間なく並べられ、


雑多な資料、パソコン...


それらに囲まれる様にして三十名ほどの


おそらく、この藻須区輪亜部新聞社の


社員と思われる様々な人間の姿が見える


「Хаяши!

(林!)」


「Хуан!

(ホァン!)」


「Это сотрудник


 "Ничиаса" в Японии?

(・・・これが、もしかして


 日本の"ニチアサ"の社員か?)」


「・・・・」


"ニコッ"


「・・・・」


編集室の部屋の中にある手前側の机に座っていた


肌の浅黒い、背の低い男が林、


そして隆和を見ると


林はその男の言葉に答えながら隆和に向かって


何かよく分からない笑顔を浮かべる


「Привет, я Хуан

(どうも、私、ホァンね)」


"スッ"


「・・・あ、あー」


肌の浅黒い、おそらくこの藻須区輪亜部新聞社の


社員と思われる男が隆和に向かって手を差し伸べ


笑顔を見せ話し掛けてくるが、


隆和にはこの男が何を言っているか全く分からない


「あ、あー...」


「デスク」


「礼文....」


戸惑った様子を見せていると後ろから


新入社員の礼文 健一が


二人の間に進み出てくる


「Привет, приятно


 познакомиться,


 мы сотрудники японской


 газеты из Японии.

(どうも、初めまして、私たち、


 日本から来た日朝新聞の社員。)」


「... Слушаю


 Мы с нетерпением


 ждали встречи с вами

(・・・話は聞いてるよ


 私たちあなたと会えるの楽しみにしてた)」


"スッ"


「··· С наилучшими


 пожеланиями

(・・・これからよろしく)」


"スッ"


男が礼文に向かって手を差し出すと、


礼文は差し出された男の手を握り握手をする


「А, значит, главный


 редактор ... сейчас?

(あーっ それで、編集長は...


 今いるノ?)」


林がホァンと呼ばれた男に尋ねる


「О, я сейчас здесь ...

(ああ、今はいるが...)」


「(・・・・)」


今目の前にいるこの肌の浅黒い男が


何を言ってるかは分からないが、


何となく、男の表情からこの男が何か


まずい事を言っている様な印象を感じる


「Ой, я все еще сзади,


 но сейчас у меня


 плохое настроение ...?

(ああ、相変わらず、奥にいるが


 今は機嫌が悪いみたいだぞ...?)」


「Каждый раз

(毎度のことネ)」


「Будь осторожен

(気をつけて)」


「(・・・・?)」

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