第四話 「惜別(せきべつ)」

「あ、そう言えば、デスク・・・」


「・・・・ん?」


すでに、飛行機が成田を離れ数時間。


隆和が顔にアイマスクを当て


うつらうつらとしていると、


隣の席に座っていた新入社員の


田中 ゆかりが自分の荷物の中から


何かを取り出す


"ゴソ ゴソ"


「何だ・・・それは?」


"ガサッ"


ゆかりは、自分の荷物の中から


一枚の色紙を取り出す


「見て下さいよ! これ!?


 今回、江母井デスクがロシアに


 出向するって聞いて


 文芸部のみんなが江母井デスクに


 寄せ書きみたいなのをしてくれたんですよ!?」


「・・・・?」


観光か何かと勘違いしているのか、


顔一杯に満面の笑みを浮かべているゆかりに


隆和は目を向ける


「みんな、江母井部長が


 ロシアに出向するのを聞いて


 すごい残念そうな顔してましたよ~?」


「(・・・・?)」


「見ます?」


「・・・あ、ああ。」


"ガサッ"


正直、自分は社内の人間からも


あまり好かれているとは思っていなかったし


むしろ嫌われていると思っていたが...


「(まあ、俺も文芸部のデスクになってから


  多少は長く一緒にやって来た


  連中だしな)」


「みんな、こ~んな顔して、


 悲しそうな表情で


 寄せ書き書いてましたよっ」


「そ、そうか」


ゆかりから手渡された色紙に書かれた


文芸部の記者たちからの寄せ書きを、


ゆかりの手から自分の手に取る


「どれどれ...」


"江母井デスクの仕事ぶりは


正直怠慢だと思います!"


-仁藤 雪華"


「(・・・・?)」


"今回、江母井デスクが


ロシアに行くと聞きましたが


それは当然だと思います!"


-進藤 京子-


「(・・・・・)」


"あなたみたいのを給料泥棒って


言うんじゃないですか"


-比地川 功-


"江母井部長は、多分何かの


ハラスメントに該当すると思います!"


「・・・・!」


「―――どうかしたんですか...?」


「―――いや」


"死ね!"


「・・・・」


"ガサッ"


「何か、嫌な事でも書いてありました・・?」


「・・・・」


無言で窓の外に目を向けると、隆和は


手に持っていた文芸部の局員たちが


書いた寄せ書きの色紙をゆかりに見られない様に


裏返しにしてそっと手渡す


「みんな、部長の事好きなんですね~?」


「・・・そうだな」


「ひぃぃぃっ! ひぃっ!?


 ひぃぃぃぃっ!」


「・・・・」


後ろにいる三咲の叫び声を聞きながら、


隆和たちを乗せたモスクワ行きの飛行機は、


順調に夕暮れの景色を雲の隙間を縫う様に


空へ消えて行く....


「(・・・・)」

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