第02話 血戦のカミヤムネ②
餓鸞童子の言葉が終わると同時に、彼を除いた六柱の一流麒族たちが一斉に襲いかかってきた。
それを鋭い視線で見つめる風月丸。鬼包丁を腰だめに構え、いつもと寸分も違わぬポーズで一流麒族たちを迎え撃つ。
――鬼包丁は我とともに在り。
「秒殺!!」
一閃! 風月丸は銀色に輝く鬼包丁を一気に振り抜いた。
その直後、襲いかかってきた六柱の一流麒族たちは、全員が身体を両断されていた。秒殺のあまりの鋭さに、割れることなく切断されたのだ。
倒れ込む六柱の――いや、合計一二個の肢体。それぞれが地面に崩れ落ちると、激しい破砕音と共に粉々に砕け散った。あまりにも細かく砕けてしまったので、風月丸と餓鸞童子の間に薄いもやがかかったように見えたほどだ。
餓鸞童子は大いに笑った。
「最高だよ風月丸! こんな渡殺者、初めて見た! 確かにこれは僕が殺すに値する渡殺者だ。今まで侮っていて済まなかった。ははははは!」
そんな笑いの途中で餓鸞童子がいきなり攻撃をしかけてきた。鉄扇を取り出すと、それを開いて水平に振り抜く。
「霞羽根!!」
クナイ状に鋭く尖った餓鸞童子の羽根が、水平に十五連射された。瞬時に飛び退く風月丸。すると彼の背後にあったカミヤムネの巨石に、タタタタタン! と羽根がリズミカルに突き刺さった。
対する風月丸は、そのまま餓鸞童子のもとへダッシュで駆け寄ると、「秒殺!!」と鬼包丁を振り抜く。だがそれを餓鸞童子は余裕を持ってかわす。
「何度も同じ手は効かないよ。秒殺はもう必殺の技じゃない。もちろん無秒三千殺もね」
餓鸞童子は憎々しげにそう言った。さすが歴代の風月丸と対戦しただけのことはある。老獪とはこのことだろう。一体どれだけの戦法を身に付けているのか。
パシッ! と餓鸞童子が鉄扇を畳んだ。鉄扇による剣戟を挑むつもりなのだ。
「じゃあ戦ってみようか、三十八代目」
向かい合う風月丸と餓鸞童子はほぼ同時に跳んだ。
風月丸が鬼包丁を振り下ろすと、餓鸞童子がそれを鉄扇で受け止める。小柄な体格の餓鸞童子だが、一流麒族だけあってその膂力は風月丸を上回っていた。餓鸞童子が鉄扇で軽くなぎ払うと、風月丸の鬼包丁はそれだけで弾き返されてしまう。
「秒殺頼みの戦い方しか知らないきみには、負ける気がしないんだよね。所詮人間のやることだ。その戦闘力は麒族に比べれば著しく劣る。その点、歴代の風月丸は己をわきまえていたね。毎回の戦いに工夫があったよ。そうでなければ勝てないことを知っていたんだね。愚かしいきみとは大違いだ」
二度、三度と剣を斬り結び、その度に餓鸞童子は風月丸の鬼包丁をなぎ払ってみせた。
まるで「お前など敵ではない」と言わんが如くである。
だが、餓鸞童子もまた、風月丸に別段ダメージを与えきれていないことも確かだ。お互いの実力差は、そう大きくはないのかもしれない。極めて拮抗しているのかもしれなかった。
両者の間に緊迫した空気が流れる。
先の先を取るか、後の先を取るか、両者共に動かない。
待っているのだ。お互いに相手がミステイクするのを。そこまでの読みがなければ動き出すことが出来ないでいるのだ。
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