冬の鳩
自分で言うのは何だが、私はひきこもりだ。
と言っても、別に外出する事にストレスを感じるとか、対人恐怖症なわけではない。
重度の出不精とか、超インドア派というか。物は言いようだ。
そんな私でも、外出しなければならない事態がある。
月に一回の通院と二ヶ月に一回くらいの散髪だ。割と気が重い。
試行(出かける)回数は少ないに限る、まとめる方が合理的──という基本理念に基づき、二ヶ月に一度は通院と散髪を同日に行う。今日はそういう日だった。
朝から億劫で、予定を明日にズラそうか──とも思ったが、経験上ズルズル行くことが多い。時は既に年末、来週に順延する事は考えられない。このミッションはさっさとやってしまうに限る。
通院先は電車で一駅。とは言え、地方ローカル線なのでほんの数分の距離だ。駄菓子菓子。歩くのは億劫で、なるべく運動しろと医者から言われている事実は空想という事にして電車に乗る。駅からクリニックまで徒歩一分。家から駅まで徒歩二分。ドアトゥドア。素晴らしい。本日の午前診は休診です。なんですと。
……忘れていた。そう言えば火曜日午前は休診だった。前にもやらかした。
どうしようもない。諦める他ない。午後診(16時ぐらい)まで待つとかあり得ない。仕方ないから散髪だけでも行くか──っても開店は確か9時だったような(只今8:40)
電車賃を無駄打ち(100円ちょっと)してしまった事だし、折り返しの電車に乗っても開店まで待たなければならない。
私は天命に従って、歩いて帰る事にした。
普段歩かない、朝の住宅街を歩いた。冷たい空気が清々しい。母親と幼い娘。今から保育園か何かに行くのだろうか。視線が冷たいと感じるのは、多分被害妄想ではない。
トコロでウチの近所の駅は、JRとローカル線が交差する地点で、何と言うのだろうか。ハブ駅? まぁそんな事はどうでも良いか。その、JR駅前を通る。この駅前、都会ではないが割と広く、人間様に加えて鳩様が闊歩している。
冬毛にくるまった丸々とした鳩が、私と同じ方向に歩いていた。
私はゆっくり目に歩いているのだが、歩幅は流石に鳩の10倍以上ある。徐々に追いついた。鳩に。
鳩というのは実は視界が非常に広い。340度ぐらいあるんじゃなかろうか。知らんけど。つまり、後から近寄っても、彼らは首を回さなくても見えているのだ。
後から近寄るおっさんに警戒したのか、鳩は徐々に歩く速度を落としていった。まるで「お先にどうぞ」とでも言うように。つられて、私も歩く速度を落とした。横に並ぶ。
鳩の感情なんぞ、読む事は出来ないが。あの鳩の目は、きっとこう言っていた。
何この人。
あ、うん、そうだね。ごめんね。
理髪店の入り口には貼り紙がしてあった。
「20日(前日)と21日(本日)はお休みします」
──だめだ、もう死のう。
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