第39話 いまさら……
掃き掃除を終え、宝物殿にいくと亨が待ち構えていた。
「唯ちゃん大変だったんだって? 狐様と妖退治したんだんだろ」
なぜか亨の目がキラキラと輝いている。
「うんまあ、私基本的に何もしてないけれど。なんで亨君まで知ってるの?」
「ああ、朝早くから、村瀬って役人が来てたんだよ。瑞連さんの友人らしくて。それより、唯ちゃん困っていたんなら俺にも相談してくれたらよかったのに。俺も参加したかったなあ」
と残念そうに亨が言う。
「困っていたというより、巻き込まれたというか、巻き込んだというか? よくわからないうちに始まって、よくわからないうちに終わっていたって感じかな」
「まあ、唯ちゃんには強いお狐様が憑いていつから大丈夫か」
「たしかに小弥太に助けられたよ。でも、何で小弥太、私のこと助けてくれるんだろう? 共生関係だって言っていたけれど。小弥太と会ったので、夏休みの合宿でたまたまだし」
「お供え物が気に入ったんじゃない?」
と言って亨が首を傾げる。
「そういう問題なのかな? 最初に上げたの確かコンビニのおにぎりだよ。最近では小弥太がご飯の支度をすることもあるし」
「妖というか、神様っていうのは意外に気まぐれなんだ。気に入った者を好きなだけ助けるものなんだよ」
なんだか不思議だ。過ごしている期間は短いのに、小弥太は妖というより、友であり、ときには家族のように感じている。
「そういえば、小弥太がここで、バイトをしているようなことを言っていたんだけれど何をしているのか知っている?」
「バイトじゃないって。神様の仕事をそんな風に言ったらだめだよ、唯ちゃん。とても重要なことをしている。それに狐様は日に日に力を取り戻しつつあるようで、助かるって瑞穂さんもいってた」
瑞穂に喜ばれているのならば、嬉しい。瑞穂はいまでは唯の恩人だ。本当に身元保証人になってくれている。
そしていつの間にか叔父さんたちからも、唯のマンションのスペアキーを取り上げてくれた。驚くような手際の良さだ。いったいどんな手を使ったのだろう……。
「それはとても嬉しいけれど。小弥太は、いったい何やっているの?」
唯にはさっぱりわからない。彼はここでは下にも置かれない扱いで、唯がバイト帰りに社務所に行くと、綺麗な花が生けられた床の間の前で偉そうにお茶を飲んでいる。
その日の宝物殿の手伝いも終わり、宝物殿の妻戸を開けた。この奥の雑木林には関係者以外立ち入り禁止の札があり、しめ縄がはられている。
なぜか、その奥からシャツにズボン姿の小弥太が現れた。
「小弥太、だめじゃない。そこ立ち入り禁止だよ」
彼は好奇心の赴くまま、神社で散歩していたのだろうか?
「ここに立ち入り禁止なのはお前だけだ。な、犬」
振り返ると唯の後ろにいつの間にか亨が立っていた。そして「お勤めご苦労様です」などと子供姿の小弥太に頭を下げる。
「もう、何がどうなっているんだか……」
いまだに唯だけが知らないことが多すぎて頭を抱えたくなる。神社の皆に聞いてもお狐さんが時期を見てお話しくださるという。
というか唯の扱いもとても丁寧で、たかがバイトの分際なのに申し訳なくなる。
まったく訳が分からない。
◇
暮れなずむなか、ゆっくりと小弥太ともに帰途についた。
「唯、今日は牛丼を食って帰ろう」
「そうだね、たまにはいいねえ。小弥太、牛丼屋行くの初めてじゃない?」
「さっさと済ませたいだけだ。今日はお前に客がくる」
時刻は午後六時を回っている。
「ええ、また? 叔父さんとかその家族じゃないよね。てか小弥太どうしてそんなこと分かるの?」
「何となく、俺の縄張りに入って来る者はわかる。それから唯の変な自称親戚たちは、お前の住処には近寄れない」
「はい?」
唯が小首を傾げる。
「もう二度とお前の親戚があらわれることはないだろう」
「まさか! 殺したの?」
唯が驚愕に目を見開く。
「いいや、何もしていない。人殺しはいけないことなのだろう? わかっている。俺は、危険なものからお前を守っているだけだ」
それをきいてほっとした。時折小弥太の発言は不穏だ。
「うん、だよね! 確かに小弥太は私を守ってくれている。いつも、ありがと!」
そう言ってどさくさに紛れて、小弥太の頭を撫でようとするとふいっと逃げられた。なぜか人型の時は撫でさせてくれない。
「あ、守ってくれてるっていえば、前に叔父さん達が来た時不思議なことがあったんだけれど。隣の者ですって言うすっごいイケメンが助けてくれたの。でもお隣、男性の出入りないみたいだし……あれって、小弥太だったの?」
「俺だといえば、俺だが、あれは妖術だ。久しぶりに使ったから疲れて眠り込んでしまった」
「なるほど……だよね」
唯は納得した。あれほどのイケメン、そうそういない。今思うと大人の姿の小弥太とどことなく似通っていた。
♢
牛丼屋でのカウンターで紅しょうがをたっぷり入れた牛丼をたべたあと、散歩がてら腹ごなしに家まで歩く。
マンションに入ろうとした時、エントランスの前で呼び止めれた。
「高梨」
呼ばれて顔を上げると故郷の同級生がいた。唯は故郷では苗字呼ばれていた。高梨は村で一軒しかなかったからだ。
「あれ、
唯の故郷では高梨家以外はほとんど茂木でみな名前で呼び合っていた。
太一は小弥太に気付いて目を見張る。
「高梨、その子供は?」
「ああ、わけあって預かっているの? で、太一はどうしてここに? まさか、私に会いに来たの? 」
唯は小弥太を後ろに隠すように太一の前に立つ。
「ちょっと村の人に頼まれて……。高梨、村に戻って来てくれないか」
困ったように太一は言う。
「え、どうしたの急に? 戻るって……無理だよ。今、叔父さん達があの家に住んでいるから、私住む場所ないし。こっちでは大学にも通っているし、私一人で生活しているから、きちんと卒業して就職しなくちゃならないもの」
唯はきっぱりと言った。
すると近くに止めてあった黒いバンから、パラパラと男達が出て来る。皆、村の若者で唯は彼らに取り囲まれてしまった。
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