第34話 小弥太が迷子!?


小弥太は三日後、本人の言葉通り目を覚ました。


 事情をいろいろと聞きたいのだが、フェネックのままで、人型にならない。それもかわいくていいのだが、なんだか少し物足りない。

 いまもきゅうきゅうと鳴いて冷蔵庫をペタペタと叩く。お腹が空いたのだろう。


 唯は頑張った小弥太の為に、いなりずしを作ることにした。


 ふわふわの毛の小弥太と散歩して、夜は膝に抱いて撫でて過ごした。テレビを見ながら微睡んでいる。


 夜ソファーで眠る小弥太だが、寂しいのでベッドに入れようとしたら、するりと逃げられた。

 

 いつ人型に戻るのだろう。


 ♢


 次の日、子供姿の小弥太に起こされた。


「おい、唯、いつまで寝ている」

 時計を見ると7時半だった。


「あれ、小弥太元に戻ったの?」

「戻っていない。どう見ても子供の姿だろう」

 ということは大人の姿が小弥太本来の姿という事になる。それはそれでちょっと複雑だ。


「ごめん、小弥太。お腹空いたよね。朝ごはんの支度するね」

「もう、出来ている」

「ええ!」

 唯が驚いて目を瞬く。


「だし巻き卵と味付け海苔とみそ汁とキュウリの浅漬けだ」

「浅漬けまで作ったの?」

「いいから、早く身支度をしろ」


 唯は急いで顔を洗い、髪を整え「いただきます」と手を合わせて朝食を食べた。


「ほんと小弥太の作ってくれる食事が美味しくて、私もう小弥太なしじゃいられないよ」


「唯、さっさ食え。8時半にはでないと1限に間に合わないぞ」

 唯は慌ててご飯を掻き込んだ。


「ところで小弥太、もう体は大丈夫なの?」

「問題ない」

「小弥太って、本当に神様だったんだね」

 唯がしみじみと言うと、小弥太が琥珀色の目を瞬いた。


「本当は神ではなかったが、祀られてしまっては仕方がない」

「そういうものなの? じゃあ、祀られれば、私も神様になれる?」

「人とはそういうものだろ」

 と言って小弥太が小首を傾げる。なるほど彼の言う通りかもしれない。


「あのさ、私思ったんだけれど。小弥太は子供姿の方がいいよ。もしくはフェネック」

「は?」

「なんかあれ、ちょっと怖い」


 興味がないのか小弥太は無表情だ。


「遅刻するぞ」

 ぼそりと言われて、唯は慌ててご飯を食べ終え、食器を片づけた。


 小弥太が心配で四日間、盛大に大学をさぼってしまった。


 そして小弥太はというと、大学について来た。

 子供姿では目立つからやめておけと言ったのに、ちょろちょろと大学の敷地内に入り込み、あっという間に姿を消してしまった。


 今はどこにいるのか分からない。まあ、小弥太のことだから、大丈夫だろうとは思う。



 昼休みに、小弥太と食事をしようとして探していると学生会の沙也加に捕まってしまった。


「唯! ちょうどよかった。お昼一緒にしない?」

 何がちょうどよかったのだろう。ちっともよくない。唯は学園のゴシップには興味がないのだ。


「あ、いや、あの私、ちょっと人を探してて」

 さっそく逃げ腰になる。


「いいじゃん、たまには。学部違ってなかなか会えなんだからさ」

 結局沙也加が強引で、同じテーブルに着くことになってしまった。


「それで、マリヤってどうなったの? いろんな噂がとびかっているけれど?」


 好奇心にランランと目を光らせて聞いてくる。


「知らない。私サークル辞めたし。情報なんて入ってこないって」


 唯は沙也加の話には上の空で、小弥太を心配しながら、食堂でわかめの浮いたうどんを食べる。


「唯、それしかたべないの? ダイエット?」


 沙也加は、というと大豆のチョコバーを一本くわえている。そんなもので足りるのだろうか。


「ほら。私、少食だから」


 唯の視線に気づいた沙也加が言う。もう突っ込む気にもなれない。なぜダイエットしていると素直に言えないのだろう。そして唯にダイエットしているのかと煩く言ってくる。


「なんかサークルの人達、最近、皆口が堅くなっちゃってさあ、何も教えてくれないんだよね。井上君に聞いてみたんだけれど、知らないの一点張りでさあ。彼、ちょっと神経質になっているみたいなんだけれど、なんかあった? ああ、それから阿藤さんも全然教えてくれないんだよねえ。貴重な情報源だったのに」


 さすがの阿藤も黙ったらしい。よかった。


「うん、私も全然わかんない」

「ゆうて唯ってマリヤと仲良くしてなかった?」

 唯は記憶を探る。しかし、いがみ合っていたことの方が多い。


「いや、あんまり。それにマリヤは私と違って、交友範囲広いし」

「そんなことないって、あの子って、嫌われる子には嫌われてるよ」

 沙也加が鼻にしわを寄せて笑う。

「ああ……」


 肯定するわけにもいかず、かといって否定するのもおかしい。唯はうどんをすすることに専念した。これは一刻も早く食べ終わって、小弥太を探しにいかねば。


「唯さあ、一年の時、一時期マリヤと仲良くしてたじゃない」

「そんなことあったっけ?」

 全く記憶にない。舞香と一緒にサークルをやめたかったくらいだ。


「一緒に原宿だか渋谷だかにいったんでしょ?」

 そういえば、最初は友好的だった気がする。唯と舞香をサークルに誘ったのもマリヤだった。


「ああ、行ったことがないっていったら、連れて行ってくれたな。まだ大学に入学したばかりのころだったけれど」

「あははは」

 突然、沙也加が大爆笑した。


「え? 何?」

 さすがに唯もぎょっとした。


「そんでさあ、あんた、スカウトされたんだって?」

「ああ、なんだか怪しいところにね。変なビデオ作ってる会社だって聞いたよ。上京したての子を騙すんだって」

 

 その話を聞いたとき、東京は怖いところだなと思った。しかし、沙也加が、なぜそんな過去を掘り起こすのかわからない。


「それ嘘だよ。マリヤが言ってたんでしょ? 結構大手のモデル事務所のスカウトだったらしいよ」

「はい?」


「マリヤが、酔った勢いでぶちまけてたよ。唯ばかり声をかけられて名刺もらっていて頭に来たら、AVの会社だっていって全部名刺取り上げてやったって」

 結構どうでもいい話だ。


「ふーん」

 唯はこんなところで沙也加の相手になっている場合ではない。小弥太を探さなければ。最後のうどんをすすった。


「ああ、ちょっと待ってよ、まだこの話の続きがあるんだから」

 席を立とうとすると沙也加が引き留める。


「いや、もういいって」

 さすがにうんざりしてきた。


「マリヤがね、唯から取り上げた名刺の事務所に電話かけたんだって、あんたのふりして。それで、いそいそモデル事務所にいったら、一緒にいた友達連れて来いっていわれたんだってさ。ブチ切れてたよ」


 沙也加は笑いが止まらないようだ。何がおかしいの唯にはさっぱりわからない。むしろ不愉快な話だ。だが、それでマリヤに嫌われたのかなと何となく察しがつく。


 確かにその頃から、マリヤとの間がギスギスしだした。


「ああ、そう……」

 唯は呆れてトレイに手をかけた。


「だからさあ、唯いまからでもモデル事務所受けてみれば、私、事務所の名前覚えているよ。教えてあげるから電話してみ? 結果知らせてよ」

「いや、いいよ。無理だし」

 そう言って席を立つ。

「ええ、なんでもったいないよ! そんでもって、私のこと紹介してよ」

 結局それか……。


「じゃあね」

 唯はすたすたと返却口へ向かった。

「ちょっと唯! あんたそういうとこ直さないと! まじで彼氏できないよ」


 沙也加の声が追って来たが聞こえないふりをした。もう面倒くさい。彼氏とはそんなに必死になって作らなければいけないものなのだろうか。唯には小弥太がいればそれでいい。


 そんなことより、彼はどこへ行ったのだろうか。

 食堂から出た唯は途方に暮れた。


「小弥太、どこ行っちゃたんだろう」

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