第28話 小弥太とファストフード


 マリヤの事件から一週間大学は噂話で持ちきりだった。

 

 今はマリヤも含めたバトミントンサークルの女子たちが行方不明だった期間、どこにいたのかが焦点になっている。三人とも派手めな女子だったせいか、たまり場で薬をやっていたとか、いろいろ無責任な噂が流れていた。


 唯は学生会の沙也加にしつこくされて辟易としていた。サークルにいたいうだけで、いろいろ聞かれる。おかげで落ち着て勉強もできなかった。


 だが、マリヤがなまなりになったという噂はどこからも聞こえてこなかった。恐らく唯と村瀬以外その姿は見てはいないからだろう。


 ♢



 唯が家にかえると小弥太がちょうど掃除機をかけていた。


「お帰り、唯」


 テレビに夢中になっていないときは、唯が留守だと家事をして待っている。凄すぎる妖だ。やはり狐様と呼ぼうかと思う。


「狐様、ありがとうございます。とっても助かります」

「そんなことを言ってもご利益はない。おやつを食べたら図書館だ。今日は、バイトはないんだろ」


 銀髪の見た目10歳の美少年である小弥太に勝手に予定を決められた。


「なんで図書館なの? こないだ行ったばかりじゃない」


 フェネックの時は公園で走り回っているくせに人型の時は本屋や図書館に行きたがる。


「唯も図書館でちゃんと勉強したほうがいい。このところ事件にかまけ過ぎだ。成績が落ちたら困るのはお前だろう」

 見た目小学生に叱られた。これではどちらか保護者か分からない。


「なんか最近小弥太お母さんみたい」

「それをいうなら、お父さんだろ」

「だって、家にいて家事をやってくれて、時々お小言言うじゃない」

「古いな。いつの時代の話をしているんだ。だいたい専業主婦というのは絶滅危惧種なのだろう?」


 小弥太に呆れられた。


「うちの田舎の話だよ。というか、専業主婦なんていつのまにそんな言葉おぼえたの? そんなことより、小弥太プリンだよ。」


 唯は小弥太に土産のプリンをみせた。


「生クリームのかかっているやつか?」

 小弥太は生クリームのかかったカスタードプリンが好きだ。


「もちろん、今度はコーヒーゼリーに挑戦してみようね。ちょっと苦みがあって大人の味だけど」




 それから、髪を黒に変化させた小弥太と散歩をしてから、図書館に行く。帰る頃には時間は8時を回ってしまった。


「小弥太、今日は外で食べようか」

 と小弥太に聞くと。


「俺は、箸を使わず手で食べられるやつがいい」

 と答える。


 そういえば小弥太は今までファストフード店に行ったことがない。二人は、飲食店の多い最寄り駅に行くことにした。

 

 エスカレーターに乗り、ビルの二階に入っているハンバーガー屋に行く。店内は意外に込んでいた。さすがに平日のこの時間だと子供連れも少なく、いつもより静かに感じる。

 唯は適当に席をとり、小弥太とレジカウンターに並ぶ。


「小弥太は何がいい?」

「俺は、あのポテトとかいうやつが食べたい」


 小弥太がメニューを指さす


「それだけじゃ足りないでしょ?」

「この店一番大きいバーガーいい」


 小弥太らしいオーダーだ。体は子供だが、よく食べる。


「分かった。じゃあ、今日の小弥太のお供え物はそれね」

「ああ、ご利益は期待しろ。唯は何にするんだ」

 バーガーでご利益があるなんて、コンビニエンスな神様だ。


「うーん、迷っちゃうな。期間限定バーガーが二種類もある」。

「そんな事で迷うのか? 自分の一番好きなものでいいではないか」

 小弥太が驚いたように目を瞬く。妖は迷わないのだろうか。


「がっつり肉がいい気もするけれど、シュリンプも捨てがたい。私、エビ好きなんだよね。決められないよ」

「なら二つ食べればいいだろう」

 当然のことのように小弥太が言う。


「え、まさかそんなに食べられないよ」

「大きいバーガーはやめて俺は、あのトマトの挟まれた期間限定のバーガーにする。お前はもう一方のシュリンプの入っているやつを選べばいいだろう」

「へ?」


 唯はびっくりして目を瞬いた。


「両方味見して気に入った方をたべればいい」

「え? だって、小弥太は」

「俺は残った方を食べる」

「まさか! それじゃあ悪いよ。お供え物だし」

「別に俺は気にしない」


 唯は慌てた。日に日に小弥太との関係が逆転していっている。なんというか小弥太どんどん大人になってしまうようで焦りを感じる。まるでこれでは唯が我がままをいっていうようだ。


 などと悶々としている間に順番が来て、結局小弥太の言う通り選んだ。


 結果、シュリンプ入り方が唯の口にあった。小弥太はトマトのスライスが入ったバーガーを頬張っている。ポテトが気に入り、初めて飲んだコーラーに目を丸くしていた。


 食事もそろそろ終わりに差し掛かった頃、


「あれ? 高梨?」

「唯先輩」

 名を呼ばれて振り返ると村瀬と一年の幸田がいた。折角の小弥太とのディナーを邪魔されてしまった。どこまでも、サークルのしがらみはつい来る。そして村瀬とか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る