第2話 肝試し2
風もなく妙に静かな夜。空気は熱くジメジメとしている。深夜ライトを携えて、ぞろぞろと酔っぱらった学生たちが雑木林をいく。
きっと地元の人たちに嫌われることだろう。これだから、「東京の人間は……」唯の実家のある田舎でよく聞いた言葉である。
羨ましいことに副会長の
最も彼女が起きていたら、全力で彼らを止めてくれていただろう。なぜ、お調子者の阿藤が会長になったのか。かおりがなってくれればよかったのに。
ちなみに阿藤は父親のコネで入る会社が決まっているので、就活の必要はないと豪語している。
唯は出かける前に散々虫よけスプレーを撒いたせいか、蚊が寄ってこないことにほっとしていた。服装も長袖にズボン完全防備だ。
しかし、女子でそんな恰好をしているのは唯だけで、後輩の明美はスカートにサンダル。マリヤもショートパンツにサンダルにビスチェだ。
マリヤは村瀬のとなりで「怖い! どきどきする。きゃあ」などと騒いで肝試しに花を添えている。
唯はその喧騒を避けて、しんがりを行くことにした。
割とここのところマリヤに絡まれることが多く、彼女とは距離をとっている。
マリヤは思い込みが激しく唯が村瀬を取ろうとしていると勘違いしているのだ。
確かに村瀬は大学で一、二を争うイケメンだと思うが、唯は彼が苦手だ。別に性格が悪いと言うわけではない。むしろ爽やか系でイケメンだ。
しかし、なぜか唯にはその笑顔が、うさん臭くみえてしまう。
都会のように街灯もない暗がりをスマホのライトをたよりに進んで行くと、雑木林はやがて竹林にかわる。
「なんか不気味だね」
同じく後ろを歩いている井上が声をかけて来た。
「ほんと早く帰りたい」
「高梨は心霊スポットとか苦手? それとも興味ないの?」
不思議そうに井上が聞いてくる。
彼はなぜ、こんなチャラいサークルに入っているかと思うほど、外見は真面目そうである。見た目も悪くない。恐らく村瀬がいなければ、もう少しもてただろう。
「うん、全然興味ない。心霊スポットってひとけがなくて危なそうだし」
「へえ、意外。怖がりには見えないけどな。昨日皆でスプラッタ映画見てた時も全然平気そうだったじゃん」
顔に出にくいのか、唯はよくその手の誤解を受ける。別に平気ではなかった。
本当に怖いと人は固まると思う。声も出なかったというやつだ。マリヤのように「やだ! こわいよ~」などと騒ぐ余裕はなかった。
「そんなことないよ。昨日は途中で部屋に戻って寝たよ」
耐えきれなくてそそくさと中座したのだ。
「だからそれがすごいって、山野も瀬戸も一人じゃトイレに行けないって大騒ぎだったよ」
すごくどうでもいい情報。明美もマリヤも今前の方で男の先輩たちと騒いでいる。本当に彼女たちは生き生きとしていた。
「ああ、なんで私ウノで勝っちゃったんだろう。ここのところ勝負事はいっつも負けていたのに」
返す返すも悔しい。本当にここのところついていないのだ。なんなら、東京に出てきてからずっとついていない。
「勝っても負けても高梨は来ることになってたと思うよ」
「え、なんで?」
「女子二人じゃあ、盛り上がりに欠けるじゃない」
「ええ、私、どっちかっていうと陰キャだよ。マリヤと明美が盛り上げてくれてるから、私いなくてもいいんじゃない」
そんな事の為に付き合わされているのかと思うとがっくり来る。唯はこのサークルで、いつも頭数合わせに便利に使われている気がする。隣で井上が楽しそうに笑う。
「おおい。高梨、井上、何二人で内緒話してるんだよ。もうすぐ着くぞ! 早くこっち来いよ」
先頭を歩いていた阿藤が大声で叫ぶので皆の注目が二人に集まった。
「阿藤さんには気を付けて」
こっそりと井上が唯に囁く。
「気を付ける? 何に?」
「高梨、そのうち口説かれるよ」
唯は肩をすくめる。
「そんなことないよ」
何度か二人きりで出かけようと誘われたが、皆で行きましょうとやんわりと断った。今回の合宿に強引に誘ったのも阿藤だ。
しかし、彼は唯以外の女子にも同様に気軽声をかけている。実際にマリヤは何度か二人でカラオケに行ったことがあると言っていた。だから、井上がいうようなことは無いだろう。
今はバイトと勉強でいっぱいいっぱいだし、そのバイトも先日首になってしまった。新しく探さなければならない。夏休みだから、バイト探しも大変だ。
唯は今金に困っているわけではないが、わけあって頼れる親族がいない。だから、なるべく金は使わず貯めたいのだ。
これは本当に辞め時だ。飲み代やら、旅行やらで金のかかるサークルなどやっている場合ではない。
出費はなるべく抑えなければ。唯は決意も新たに先頭集団に追いつくべく、足を速めた。
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