第14話

 沙希とは夜の数時間をゲームの特訓をするという約束をして、俺も楽しんだ時間はあっという間に過ぎていく。


 初心者を導くのは楽しい。自分自身も息抜きになるし、言語化して伝えることは勉強にもなる。


 俺はツムギを強くするため、今回のシーズンはレジェ帯を維持出来そうにないが、それもまた良しと切り替えた。


 俺はツムギに救われている。沙希は分からないと思うが、vtuberの影響力は大きく、ひたむきに頑張るツムギから元気を貰っていた。


 ツムギと出会わなければ、早い段階で学校が嫌になり不登校になっていたはずだ。どういう形だろうと恩は返すのだ。


 俺が持っているものはゲームの才能だけ。だから、ツムギを――沙希を強くする。


 そんな決心をして翌日。時間も惜しいというのに学校へ登校するのは免れず、授業を消化していく。


 休み時間にもなれば俺は寝たふりで過ごすのだが、隣の沙希は俺のノートを必死に解読していたのが印象に残っている。


 昼休みになるとツムギの声で癒され、放課後まで堪えきって帰宅する。そしたら、校門前に居た二人の女性が近付いてきた。


 大学生のような見た目をした若い女性だ。私服でどうみても高校生ではないことは明らか。ゆるふわパーマに大人っぽい色気を醸し出している。


 もう一人は平均よりも小柄な見た目で、前髪で瞳を隠している。中学生の制服を着ている少女だ。


「あの~。この学校に沙希さんって居ませんか~?」


「そう、冴島っていう名字の……」


「えっと……」


 二人に詰め寄られ、口ごもる。


 多分、俺が知っている沙希のことだろうか。他に同姓同名が居るのか把握していない。


 それに、女性免疫の皆無でコミュ障なので適切な受け答えは難易度が高い。たじろいでしまった俺は逃げ場はなく、出来もしない手話で乗り切ろうと試みる。


 頼むから、他の人に聞いてくれ。むり。


「あ、カナデ先輩とスズちゃん!?」


 俺なりに頑張って無理ですと伝えていたら後ろから聞き慣れた声がした。


 沙希である。


 ゲームは初心者だが、現実世界のカバーはレジェ帯だね。超絶助かった。


「沙希ちゃん~。よかった~」


「沙希、ごめん。謝りにきた」


「えー、どうしたの?」


 用無しとなった俺はそそくさと退散しようとするが、少し歩いて見守る。スマホを弄って、待ち合わせをしている風を装った。


 どうしてか気になってしまった。特に、あの大学生の声に聞き覚えがある。


 スマホを触りながら、ちらりと見れば校門前には絵面がおかしい集まりが出来つつあった。カーストトップ集団に加え、沙希の両脇を挟んだギャル二人に大学生と中学生だ。


「昨夜のことなんです~」


「あー、」


「この人たち、沙希のダチっしょ?うちら先に帰っとこうか?」


「うん、ごめんね」


 沙希の取り巻きであるギャル二人が気を遣かっている。カーストトップ集団を校門前から除外していくが、俺は目を疑ってしまった。


 あの二人に気を遣うという選択肢があったとは。そんな知能があったのか。


 もしかしたら、俺をボロクソ言ってくる以外は良いやつなのかもしれない。腐っても沙希の友達だ。俺にとって手厳しいだけなのか。ふざけんな。


「……沙希、昨日はごめんなさい」


 中学生の子が頭を下げた。


「え、どうしたの。本当に」


「昨日の配信で後半の雰囲気が悪くなってたのを気にしてまして~。ツムちゃんに合わせてやれば良かったと反省してるのです。チームリーダーなのに、ごめんなさい」


「いえ、そんな先輩まで。頭を上げてください。せっかく誘ってもらったのに、わたしが弱かったのが悪いんです……」


「そんなことない。すぐにツムはわたしよりも強くなる。だから、先輩に誘ってもらった」


「んふふ~。ツムちゃんが頑張り屋さんなのはみんな知ってるからね~」


「いえ、そんな……。でも、わたし強くなります。それを強く望んでくれたリスナーが居たから……二人の足手まといにはなりません」


「よかった~。沙希ちゃんがそう言ってくれて~」


「うん、沙希なら折れないって知ってた」


「心配してたくせに~」


「は、違うし……」


「あはは……」


「そうだ、三人でご飯行きません~? 共有しておきたいこともありますし、奢りますよ~」


「あ、いいですね。是非」


「ん、焼き肉」


 そんな会話を楽しげにする三人を地獄耳で聞いていた俺は立ち去ることにした。二人はカエデとリンで間違いない。


 スズと呼ばれた中学生が元気溌剌なvtuberのリンだと思いもしなかったが、カエデは想像通りの人だった。


 意図せずvtuberの中の人を二人も特定してしまったが、記憶を消そうと思う。俺は何も見てない。


 陰湿なイジメをツムギにやって嵌めようとしているのなら別だが、見た限りどうやら俺の杞憂だったようだ。

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