第4話 村
彩音と梨乃の二人のあとについて道を歩いていくこと小一時間。
やがて森の木々が途切れ、広大な田畑が広がる場所へと出た。
そのまま田畑の間を通る道を進んでいくと、素朴な木造住居が立ち並ぶ一帯の前にたどり着く。
それは時代劇でもよく見る光景──すなわち村であった。
近くで畑を耕していた百姓の一人が、額の汗をぬぐいながら声をかけてくる。
「おおっ、おめぇさんがたは
「分かりました。ありがとうございます」
巫女装束の少女・彩音はそう答えながら、先頭を切って村へと入っていく。
俺は隣を歩く忍者装束の少女に問う。
「梨乃さん。つかぬことを聞くけど──『浪人』って何なんだ?」
どうもこの「浪人」という言葉、俺が時代劇などを見て知っているものとは違うような気がするので、聞いてみることにした。
時代劇などで見る浪人──つまり江戸時代の浪人は、主君を持たない落ちぶれ者の武士を指す言葉だったはずだ。
だがこの世界の住人が言う「浪人」は、少しニュアンスが違うように思う。
俺の質問を受けた梨乃は、いつもの淡々とした様子で答える。
「……本当に何も覚えてないんだね。……『浪人』はボクたちみたいな、荒事を専門にする何でも屋を指す言葉だよ。町の『浪人組合』で依頼を受けて、魔物退治をしたりする」
「へぇー」
「……あと、『梨乃さん』はやめてほしい。普通に『梨乃』って呼んで。ボクが刀悧のことを一方的に呼び捨てにするのは、少し気まずい」
「分かった。……梨乃?」
「……うん、それでいい」
梨乃は俺に向かって、ほのかに微笑んで見せる。
淡々としていて表情が見えにくい娘だけど、こうして笑いかけてくれるとすごく魅力的だな。
あと、やはり「浪人」という言葉は、俺が知っているものとは意味が違うらしい。
この世界の「浪人」は、ざっくり言うと「魔物退治の専門家」のようなものだろうか。
つまり、彩音や梨乃もまた「浪人」ということだ。
浪人の誰もが、俺のような武士の姿をしているものとは限らないと。
そう考えていくと、次の疑問が出てくる。
「あと梨乃、もう一つ。『魔物』って何なんだ?」
「……魔物は、魔物としか言いようがない。人間を襲う異形の怪物。『異界の門』から現れる。倒すと黒い
「あー……」
また知らない言葉が出てきた。
『異界の門』に『魔石』か。
掘っていくと数珠つなぎで情報が出てきて、キリがなさそうだが……。
「ここが村長の家ね」
そのとき彩音が、一軒の家の前で足を止めた。
村で一番大きな家といえばこれだろうという建物だ。
俺はひとまず、情報収集を横に置くことにした。
彩音は当の家の扉をノックして、「ごめんくださーい」と声をかける。
すると家の中から、村長と思しき老人が出てきた。
「おおっ、これはこれは。浪人の皆さんですな。ささっ、どうぞ中へ」
そう言われて、家の中へと通される。
彩音と梨乃、そして俺は、勝手口で
俺を含めた三人は、村長と対面する形で囲炉裏を囲んで座る。
彩音と梨乃がきれいな正座をしたので少し迷ったが、俺は
そのほうが「らしい」と思ったからだ。
「よくぞおいでくだすった、浪人の皆さん。小鬼退治に来てくださったということで、よろしいですかな?」
「ええ。小鬼が現れた状況について、詳しく聞かせてもらえますか?」
村長と彩音が、話を進めていく。
そのかたわらで俺は、気になることを梨乃に耳打ちで質問する。
「梨乃。『小鬼』っていうのも、やっぱり『魔物』なのか?」
「……うん。小鬼は最弱の魔物と言われている。数が少なければ、
「でも数が多いと、ってことか」
「……そう。数の多い群れになると、村の人たちでは追い払うのが手一杯。町に知らせが走って、そこから先はボクたち浪人の仕事になる」
そんな話をしているうちに、村長と彩音の話も終わったようだ。
彩音が立ち上がって言う。
「小鬼との戦いで怪我を負った人が何人かいるみたいだから、先に診てくるわ」
「……彩音。
梨乃がそう聞くと、彩音はうなずく。
「うん。苦しんでいる人を放ってはおけないもの」
「……とか言って、本当は小遣い稼ぎが目的でしょ」
「えへへーっ、バレたか」
「……いいけど、このあとの小鬼退治に支障がない範囲にしてよ」
「はぁーい」
彩音と梨乃はそんな話をしながら、村長宅をあとにする。
俺も二人に続いた。
それはいいとして……「フジュツ」って何だろう?
分からない言葉が次々出てくるなぁ……。
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