02話.[ありがたいけど]
「え、どっちが遊のために美味しいご飯を作れるかで喧嘩した?」
「ああ、それでふたりが話していなくてな……」
それはまた……お姉ちゃん思いでいい弟と妹だね、とか言っておけばいいのかな?
別に彼女と喧嘩したわけではないみたいだから時間経過を待てばいいと思う。
それぞれに自分のしたいことだってあるはずだし、そうやって騒げば騒ぐほど大好きなお姉ちゃんを困らせることになると中学生であればすぐに気付けるだろう。
それでももし全く気にせずに続けるようなら「お姉ちゃんのことが好きじゃないんだね」と言わせてもらおうと決めた。
「私としては仲良くしてほしいんだ、例え私が嫌われることになってもあのふたりが仲良くいられるのであればいいと思っている」
「それは駄目だよ」
「でも……」
「あのふたりと仲良くできなくて悲しそうな顔をしている遊を見たくない、こう言ってはなんだけど遊は顔に出やすい子でもあるからね」
「そうかもしれない……」
そんなことになれば全体的に影響を受けてしまう。
悪く考えて自滅、なんてこともあるかもしれない。
だから今回の件はふたりに分かってもらうしかないんだ。
彼女に負けないぐらい真面目な子達ではあるし、きっとすぐにでも気づいてくれるはずだ。
柚月に対するときと同じで、動かなくて済むはずだった。
「根拠はないけど大丈夫だよ、遊が嫌われるなんてことはありえない」
こういうときもっと賢い人間だったならちゃんと○○だからそういうことにはらないと言えたはずで、そういうのもあって久しぶりに悔しいと感じた。
こんなこと誰だって言える、別に相手が僕でなくたって問題ない。
それでも柚月だったら、それだったら間違いなく力になっていたことだろう。
「やっほー!」
「はは、これはまた分かりやすく元気だな」
「当たり前だよ! だってお昼はぽかぽかで暖かいからね!」
確かに柚月が言うように暖かかった。
いまなら外のベンチに座っていても元気よくいられそうだ。
それでもしないのは外にまで移動するとふたりと話せなくなるから。
チャンスを自ら潰してしまうのはもったいないからこれでいい。
ひとりでぼうっとしたいなら放課後の教室に残ってしておけばいいんだからね。
「たまには今度三人でどこかに行こうよ」
「私は大丈夫だ、あ、昼に一旦帰らないといけないが」
「えぇ、遊ちゃんはちょっと甘すぎるよ! いつまでもお姉ちゃんが作ってくれたご飯じゃなきゃ嫌だとか言っていられないよ!」
「私がそうしないと気持ちが悪いんだ、許してほしい」
「まあ、嫌々じゃないならいいんだけどさ……」
僕みたいにならなければ自然と自分達でやるようになるはずだ。
一年生と三年生、学年も違うということで協力は少し難しいかもしれないものの、そこは交代交代でやっていけばいい。
これまでやり続けてきた彼女であれば見ているだけなんて納得できないだろうからなにかで困ってもそこと協力すればいいんだ。
つまり、少し意識を変えるだけでそういう風にできる環境は既に整っているということだった。
小学生じゃないというだけで安心して任せられるというのも大きい。
「それよりどこに行く? 私は運動でもいいよっ」
「純はどうしたい?」
「僕はふたりに合わせるよ、お店とかもよく分からないから」
我慢しているとかではなくて実際にそうだった。
ひとりでお店に行くような趣味もないからそういうことになる。
また、〇〇かななどと言って文句を言われないための保険でもあった。
それに一緒にいてくれているふたりに自分勝手なところは見せられない、荷物持ち要員でもなんでもいいからふたりの行きたいところに付いていくだけだ。
「んー、たまには純が行きたいところに行きたいな」
「分かる、いつも合わせてくれているからね」
「いや、本当によく分からないし……」
行きたいところとかも本当のところを言ってしまえばないんだ。
物欲もないからお小遣いというのは貯まっていくだけだった。
だから彼女達の誕生日がくると本当にありがたかったりする。
といっても、千円以内と何故か向こう側から言われてしまっているからあまり有効活用できているとも言えないが。
それこそふたりがいてくれているだけでかなり助けられているんだから五千円とかそういう物でも全く構わないというのに聞いてくれなかった。
返すときに気になるだからだろうが、僕は全くそういうのを気にしないのに。
「仮にそれならふたりの家のどっちかかな」
「その方がお金も使わなくて済むかもしれないけど……」
「無理やり挙げているだけだから、僕は本当にふたりに付いていければそれでいいんだからさ」
なんならふたりだけで仲良く遊んできてもらっても構わない。
本当に一週間に一度ぐらい話せればそれでいいんだ。
僕の中にある気持ちをぶつけるとふたりの自由な時間がなくなってしまう。
そうしたら一緒にいるときも顔に出やすい遊なんかは無自覚に出すだろうし、そんなところを見るぐらいならひとりでぼけっとしている方がマシだと言えた。
「あ、純だー」
「こんにちは」
水曜日というのもあって――ではなく、まず受験生の
それからそう時間も立たない内に弟である
「拓、ちょっと飲み物持ってきて」
「分かった」
あれ? もう喧嘩は終わったんだろうか?
それとも、あくまで音羽ちゃんがお姉ちゃんだからこうしているだけだろうか?
「純、ちょっと横にずれて」
「あ、うん」
元々食事用のための椅子に座っていたふたりのお姉ちゃんを見てみたら「もう仲直りしたんだ」と教えてくれた。
一日しか経過していないのにこれということはすぐに気付けたということか。
それかもしくは、そもそも喧嘩ではなかったのかもしれない。
ほら、言い争いをしつつも仲良くやっていることだってあるからさ。
「純はさ、よく遊といるけど好きなの?」
「好きだよ?」
「あー、私が聞いているのはそういうことじゃなくてさー」
「仮にそういう感情を抱いていたら遊は一緒にいてくれていないよ」
柚月だってそうだ、だからこのままでいいと考える自分もいるんだ。
それに他の子に告白をして振られるよりもふたりに振られた方が遥かにダメージが大きいからできない。
相手が分かりやすくアピールでもしてきてくれていれば僕だってもう少しぐらいは男らしくあろうとするけど。
「柚月は?」
「音羽ちゃんも知っているでしょ?」
「惚れ症の人間ってなんでああなんだろうね、普通そんなすぐに誰かを気になったりしないでしょ」
まあ、色々な人がいるからで片付けられることだった。
どう過ごすかは制限されていないし、何度も言っているように犯罪行為をしているわけではないから悪いことには該当しない。
いつまで考えたところで本人じゃないから分からないことだ。
そう感じてしまったとしても言わない方がいいとしか言えなかった。
「そういう人もいるんだよ。すみません、俺の姉が失礼で」
「なんだよー、どうせ拓だって同じように感じているでしょー」
「柚月さんがどうしようと柚月さんの自由だろ」
「むぅ、弟が生意気だー」
気に入らなかったのかリビングから出ていってしまった。
彼も再度こちらに「すみません」と謝罪をしてからリビングを出ていく。
なんか前を見てぼうっとしていたらお姉ちゃんが隣に移動してきた。
「悪い」
「いいよ、別に悪口を言ってきているわけでもないし」
「何気に純のことを気に入っているんだ、それは拓もそうだけどな」
「拓君はまだ一年生なのに本当にしっかりしているね、音羽ちゃんの方は柚月にそっくりって感じでさ」
「柚月の真似をすることが多いからな、ただ、その中でそこだけは理解できない……らしいけど」
柚月からすれば勝手に真似されたうえに一部分だけでも否定されているわけだからやっていられないだろうな。
しかも音羽ちゃんの怖いところは本人にもずばっと言えてしまうところだった。
どうせ怒られない的な思考でいるのかもしれないが、流してくれる人間ばかりではないから気をつけた方がいいかな。
「あ、今日の話の続きだけどさ」
「それはふたりが行きたいところに行く、それで終わらせたはずでしょ?」
「でも、私はやっぱり純の行きたいところに行きたいと思っているんだ」
そう言われてもやっぱり出てこない。
どちらかの家に行きたいと言ったときも無理やり挙げたようなものだった。
「気持ちはありがたいけど――」
「それなら柚月は放置してふたりで出かけてくればいいんじゃないっ」
「音羽、純さんがそんなことできるわけがないだろ?」
「いやいや、こういうタイプこそ決めるときは決めるんだよ」
「少なくとも内緒でこそこそ動くタイプじゃない、どっちのことも悲しませないようにと行動するのが純さんだ」
ここでまた言い争い的なことをしてほしくないからこの話は終わらせておいた。
そうしたら今度こそ宿題があるということで上がってくれて助かった。
まだもう少しぐらいはいたかったから謝罪をしてからいさせてもらうことにする。
「私だけではなく柚月がいるから気にしているということなら今度、ふたりだけで行動したときは純の行きたいところに行こう」
「正直、ないんだよ、ふたりといられれば僕的にはそれでいいからさ」
これまでだってそう、いてくれているから我慢しようと考えてしていたわけではないんだ。
もちろん保険をかけているところはあるものの、流石の僕でも行きたいところがあればしっかり言う。
少し矛盾しているが、少しぐらいわがままを言ったところでどうこうなる関係ではないと信じているところもある。
「お、おじいちゃんなのか?」
「物欲とかもないんだよね」
「だけど私としては……」
駄目だ、延々平行線だ。
結局あのふたりより自分が一番迷惑をかけていることになるから帰ることにした。
冗談でもなんでもなくあの場にあのままいたら調理とかも捗らないだろうから仕方がない。
ただ、こっちのこともちゃんと考えてくれるところがやっぱり好きだった。
「ねね、クリスマスってもちろん三人で集まるよね?」
まだどこかに行ったわけではないのに少し気が早い柚月だった。
それこそ彼氏的な存在を作って今年こそは! みたいな思考にならないのが不思議だと言える。
だってそういうときに過ごせたりすることを羨ましく感じているからこそ行動していると思うから。
「私はそのつもりだ、音羽も拓も毎年友達を優先してしまうからな」
「僕も問題ないよ」
「よし、それならよかったよ」
一応聞いてみたら「そのときまでにできると思う?」と返されてしまった。
ずっと焦る必要はないと考えていたのはこちらだし、過ごしたくないというわけではないんだからそうなんだとだけ答えておく。
出会ってからは何気にほとんどのクリスマスを彼女と、そして遊と過ごしてきたから今年は無理となったら普通に悲しい。
でも、まだまだどうなるのかは分からないから期待半分ぐらいの気持ちでいることにしようと決めた。
「今年はどうしようか」
「私の家でも問題ないぞ」
「僕の家でも問題ないよ、イブが本番みたいなものだから」
「じゃあ純の家でもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
両親に迷惑をかけるということもないから問題はない。
リビングが無理なら客間でやったっていいんだからね。
サラダとかそういうのだけでも食べつつ話せれば盛り上がれる。
正直、僕の家からふたりの家が近いというのもいいことだった。
そういうところを狙って襲われる、なんてこともゼロではないから。
「大晦日も大丈夫?」
「「大丈夫」」
「ほっ、それもよかったよ」
一番どこかに行ってしまいそうなのが彼女だというのに面白い反応だった。
そのことを正直に言う遊がぶつけていたが、彼女は「え、誰の話?」とでも言いたげな反応をしているだけ。
振られた思い出しかないから蓋をしたいのかもしれないと考えてみた。
「やっぱり夏休みもクリスマスも大晦日も一緒に過ごさないと気持ち良く終われないからねー」
夏休みは一週間ぐらい家に泊まっていたぐらいだ。
そのときも振られた後だったから完全にいつも通りというわけではなかったが、八つ当たをりしてくるような子ではないから不安になったりはしなかった。
ただ、どうしても言いたくなってしまうからその点だけはよくないこととしか言いようがない。
いやもう本当に傷ついているところを見たくないんだよ。
「とりあえずはやめるのか?」
「うん、年内は動いたりしないよ」
「そうか」
「お? なんか露骨に安心したような顔をしているね?」
「そうだな、柚月とだって一緒にいたいからな」
むぎゅっと目の前で遊に抱きついた彼女、遊も満更でもない顔で抱きしめ返したうえに彼女の髪を撫でていた。
ちなみにこちらは空気を読んで離れたりはしない。
昔、ふたりだけで盛り上がっていたから帰ったことがあるのだが、そのときは本当に物凄くふたりから怒られたから。
だから僕を誘わずにふたりだけで楽しんでよとか言うこともしない。
「ちょっと冷静ではなかったことに気づいてさ、だってそのために夜ふかしとかしていたら本末転倒だから……」
「だな、押し付けかもしれないが私は柚月にいつでも元気にいてほしいんだ」
「私もそうだよ、寝不足になると分かりやすく同じようにいられなくなるから気をつけなきゃって考え直したんだよ」
なんでも正直に言ってくれる彼女の存在はありがたかった。
もしそうでなければいまでも焦って、そして失敗をしていたかもしれない。
ある程度の妥協は必要ではあるが、彼氏的存在が欲しいからって細かいことから目を逸らしてはいけないんだ。
「純は?」
「え?」
「どんな私がいいの?」
「それは遊が言ったように元気なきみがいいよ。僕は遊と出会うよりもずっと昔からきみといる、きみのそういうところには何度も助けられたから、うん、押し付けかもしれないけどそうであってほしい」
で、もう最近だけでも沢山考えているようにたまにでいいから話しかけてきてほしかった。
もちろん、こうして来てくれたときは完全に優先をする。
そのときに敢えて僕も参加したら迷惑なんじゃないかなどと悪く考えたりはしないようにしている。
だってもしなんらかの不安があるならこうして誘ってきたりはしないだろう。
昔から一緒にいるということはかなりの数の失敗というやつを重ねてきたことだろうし、そういうので切る存在なら何度目かの時点で離れているはずなんだ。
「あはは、きみってなにさ」
「ちょっと格好つけたかったんだよ」
「今回も優柔不断なところが見られると思ったんだけどなー、そういうのは純には似合わないよ。私の想像としては『遊と同意見かな』で終わらせると思ったんだけど、なんか違ったー」
「いや、ほぼ乗っかったみたいなものだよ」
差異はあっても根本的なところは変わらない。
もし無理して元気な感じを装っているのだとしたらこれは追い詰めていることと同じだ、だから押し付けかもしれないけどと保険をかけさせてもらったんだ。
まあ、これが初めてというわけでもないし、これで分かりやすく彼女の様子が変わったりするわけでもないから気にしなくてもいいかもしれない。
それこそ彼女も同じく表に出しやすい子だから安心できるかな。
「純って優柔不断か?」
「え? 優柔不断だよ、だってなにがしたい? と聞いても『柚月のしたいことをしよう』としか言わないし」
「私はそれも純の優しさだと思うけど」
「確かに純は優しいけどさ、たまにははっきり言ってほしいんだよ。私だけが頑張っている感じが分かりやすく見えてくるとその……」
「だから純はそういう対象として見られないのか?」
「……そういうわけじゃないけど、たまにはなんか違うような子を求めたくなるというか……」
誰だってそうだ、はっきりしてくれる存在を求めるものだ。
その後も会話をしていたがそれに参加することはしなかった。
というより、僕に言えるようなことはなにもなかった。
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