第8話 フィーリアの趣味仲間。①


「あー……、此処ここ此処ここ、見える?」

「ん、ああ……此処ここか。良く見つけたねリア。」

「使用している魔石は純度の高い良質なものだし、私が描いた設計図も陣も完璧だったもの。起動後数分で停止するんだとしたら……コアを埋め込む部分と動力部分を繋ぐこの配線しかないと思ったのよねぇ」

 嬉しそうに無邪気に笑うフィーリア。

 その笑顔に釣られるように思わず笑顔を浮かべてしまう、フィーリアの趣味仲間。


 趣味仲間ではないが、もう一人「男を手玉に取る方法」を確立させた同い年の師匠のような女の友達? は、いる。

 ただフィーリアは友人というよりは、ひとつの事を成し遂げた同い年の偉人というイメージを持っている為、友人というよりは師匠である。

 色んな事を学んだフィーリアではあるが、男女関係の機微は学んでいない。

 指南本のようなものにも目を通してみた事もあるが、いまいち分からなく、面白味もなかったので、それから本を読む事もない。

 男女の機微に困ったら、師匠に頼るつもりであるので、フィーリアの中で勝手に師匠呼びしていた。

 ちなみに、その令嬢はフィーリアの事を親友だと思っている。


 話は戻り――――


 シオン・ラティレスト公爵子息。

 嫡男ではない為、公爵家を継ぐ事はないが、ラティレスト公爵家が複数所持している爵位のうちの伯爵家を何れは譲り受けるので、平民になる事はない。

 実はフィーリアの母とシオンの母親が幼馴染で親友である。

 その為、幼い頃から交流会という名の母親たちの愚痴会が定期的に開かれる場に連れられ共に過ごすうちに親友のような存在になっていた。


 フィーリアが幼い頃に皇太子と婚約を結んでしまい、それから始まる皇太子妃教育や自己研鑽に全力投球していた為、一時期疎遠になりつつあったが、数年前に皇太子が隣国へ留学した事を機にとある趣味で再度意気投合し交流が復活した。


 大体はフィーリアの家にシオンがお邪魔する事が多い。

 フィーリアの家にはフィーリア専用の趣味部屋があり、趣味に没頭するには使い勝手がいいのだ。

 最近では趣味で作成した物が利益を上げるものになってきたので、何れかは共同名義で商会でも立ち上げてみないか? と、フィーリアを誘っている。


 常日頃のフィーリアは、伝えたい事を相手に曲解されて伝わらぬように、無駄を省きシンプルな言葉を選びながら会話をする為、誰にでも理解し易いが、素っ気なく思われがちであった。


 理解し易いように無駄を省いた分、相手が即座に理解しているので会話のキャッチボールが短く纏まり易い。

 質問を挟み込む余地がない会話は続かない。

 続かないからすぐ終わる。


 仲良くなろうにも相手が懐に入り込みづらい独特の雰囲気がフィーリアにはあった。

 それは、美しい皇太子の隣に並び立っていてもひとつも霞む事のない見事な美貌であったり、美しい白鳥のように背から首まで真っすぐに伸びた優雅な立ち姿であったり、視線ひとつ、微笑みひとつ、その指先すら高貴な淑女と思わせるからか。


 崇高な志を持ち立派な皇太子になる為に日々邁進していたシリウスに相応しい伴侶になる為に努力し続けた結果が、完璧なるフィーリアであった。


 ――――そう対外的には。


 幼馴染で親友のシオンだけは別である。

 フィーリアを「リア」と呼び、納得いかない事で互いに一歩も譲らず白熱した討論をする事もある。

 大口を開けて笑い転げることもある。

 男同士のように片手と片手を頭上に上げて手を打ち合う事もある。


 ちょっと大人な部分が見える時はまるで兄のように尊敬出来たり、くだらない事を真剣にやって同じ目線でバカをやる弟のようだったり、たまに父のような説教くさい時も。


 フィーリアの親友シオン。

 彼が困った時は誰よりも早く駆けつけ助け力になりたい。

 彼の幸福を感じる時、共に喜びバカ笑いをしたい。


 フィーリアにとって親友でありながらも、フィーリアの心の中にしっかりと居場所があり、扱いは既に家族枠であった。



「リアが考案したあの火の要らないフライパン。平民の奥様方を始め料理屋でも好評らしいよ。そろそろ貴族お抱えシェフも使ってくれるかな? まーたリアの懐に大量の金貨がザックザク! 笑いが止まりませんなぁ~」


 シオンがふざけた調子でフィーリアに絡む。


「あら素敵。私、魔道具作る以外の趣味は、寝る前に金貨を数えることなの。一枚一枚数えながら今日は何枚増えたのか考えて恍惚としながら数えるのが一番の幸せよ。」


「……マジで?」


 シオンが変わった趣味に引くように背をけ反らせる。


「う、そ」

「……ヨカッタ。リアなら有り得そうだと思ったもん俺」

 額の汗を手で大げさに拭う仕草をするシオンにフィーリアはキッと睨んで見せる。


「どういうことよ。私の事そんな風に思ってたのね! 酷い人ね。」


 幼い少女のように膨らませたフィーリアの頬を人差し指でつつき萎ませると、

「冗談さ」と言いながらフィーリアの頬に当てた指で宥めるよう頬を擽り、シオンはニカッと笑った。



 

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