第3話 幼い頃に結ばれた婚約 ①
私、フィーリア・レイゼンベルグ大公令嬢とシリウス・ランティレーゼ皇太子の婚約が結ばれたのは、とても幼い頃のこと。
それは、シリウス様が皇太子指名をされるずっと前のこと。
第一皇子とはいえ、後継者教育という名の元に教育に関わり合う周囲からは常に厳しい目を向けられていた。
シリウスの一挙手一投足、シリウスが日頃考えるに至る思想のその根源までを詳らかに観察され、皇帝になり得るに足る資質を見極め続けられる日々を送る第一皇子の頃であった。
幼いからと手は抜かれない。
手を抜かなければ着いていけない者ならば、後継になど選ぶことは出来ない。
手厳しいなどと誰も思わない。
この幼子が将来の国を率いて大陸の数多の国と渡り合うのだから。
そのプレッシャーは相当のものであっただろう。
そして心の余裕などない中、突然に婚約を結ぶ事になった。
フィーリアは、婚約を結び互いに高め合う日々にその事を知ったが、結んだ当初はフィーリア自身は凡庸な幼児であったので、ストレスフルなシリウスの態度に腹が立ち、幼児特有の愚かさでシリウスを困らせたのであった。
心の余裕などない中、突然に婚約を結ぶ事になった。
シリウス様七歳、私が五歳のことだ。
その頃はシリウス皇子が帝王学を学び始めて四年、私が高位貴族令嬢教育を受け始めたくらいの年齢だった。
とても幼い年齢での婚約は異例中の異例である。
ランティレーゼ皇国での婚約適齢期は、社交界デビューを果たす十五歳になる三年前くらいから、デビュタントを迎える年までに婚約を結ぶのがスタンダードのようになっていた。
貴族としての教育がある程度は形になってきた頃に婚約を結ぶのだ。
そして、迎えるデビュタントは婚約者がいるのであれば婚約者が必ずエスコートするというのが当然であった。
婚約者が怪我や病気など余程の事が無ければエスコートするのが決まりである。
という事で、デビュタントなどまだ先の先であるのに、私達のように一桁の年齢での婚約は非常に稀で珍しい。
勿論、皇族の婚約は時勢によって結ぶ年齢が変わる事もある。
他貴族のように己の家を主軸とした派閥内のパワーバランスや、最も利のある家を選定した結果で選ぶ訳ではなく、大陸にある一国を主軸としての観点からあらゆる選定や予測を行い選ばれたりするのだからそうなのであろう。
御伽噺の王子様のように「美しい貴女に一目ぼれしました。」と自分一人の気持ちで選ぶ権利を一国を担う皇族にあろうはずもない。
激動の戦時中ではなく他国とも友好的な関係が続くここ数代は、皇族も十二歳から十三歳で婚約を結ぶ事が多かった。
そんな平和な数代が続く流れを鑑みても、私達の婚約がどれだけ早いかお分かり頂けると思う。
そこでやってきました皇城へ。
フィーリア・レイゼンベルグ五歳。
大公令嬢として蝶よ花よと両親や兄や使用人にでろでろあまあまに可愛がられ、それだけでは将来が心配だと、やっと最近少しずつ厳しくなってきた教育。
貴族令嬢としての責務だと何度も心の中で呟き、涙をぐっと堪えられるようにもなってきたようなないような…そんな頃である。
毎日の教えについて行くことに必死。そして、婚約のコの字も意識したことも、婚約というものがあり、そこには身分制度や義務や礼節や家と家との関係などなど、そんな難しい事もまだ習ってないような幼い年齢。
そんな女の子が目にしたのは、お母様の部屋に飾ってある美しい絵画に描かれた天使様のような男の子。
就寝前に毎夜読んで貰っている絵本のひとつに、目の前の男の子のような王子様が出て来る絵本がある。
フィーリアは何度読んで貰っても、毎度ときめく絵本が大のお気に入りで。
それらから抜け出てきたかのように見えた男の子にフィーリアは見惚れて呆けてしまい言葉もない。
幼いながらにも、将来の美の最高峰の美しさの片鱗を感じさせる男の子。
陽に透けて輝く繊細な絹糸のよう金髪。
白皙の肌と人間味を感じさせない美貌に唯一命を感じるとすれば、深く吸い込まれそうな空の色。その真っ青な青い瞳であろうか。
それが太陽の光を受けてキラキラと宝石のように輝いている。
フィーリアはこの時たったの五歳。
五年間で会った人数などたかがしれているが、断言できる。
この世に誕生してから五年、今この瞬間まで、これほどに美しい存在を見た事がない、と。
そんな存在を初めて目の当たりにしたフィーリア。
兄もかなりの美男児だが、そのレベルを更に突き抜けたような凄い存在が居た事も幼い心にかなりの衝撃である。
まだ五歳……そんな人外めいたキラキラした存在と二人っきり……
(勿論使用人や護衛はたくさんいる)
混乱と高揚が混ざり恐らく大興奮していた幼い私は、妙なテンションになった状態から、そこで何を思ったのか…
キラキラ皇子様とおままごとをする事にした。
何故そうなる! と、もし今の私がその場に居たら全力で止める。
それも皇子相手に不敬罪スレスレの強制参加である。
皇子とフィーリアが居る場所に配置されていた者たちが、大公令嬢よりも身分が下のものしか居なかったのも止めきれずにダメだったと思う。
かくして人形遊びの延長のような、おままごとは決行された。
それが私にとっての黒歴史の誕生の瞬間であった。
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