第二十話 新規防衛計画
ガブリエルとモルガナは早歩きで騎士隊舎の中を進む。二人は擦れ違う騎士達の敬礼に軽く答えるといつも集会を行う広間に到着した。既に大半の騎士たちは整列を終えており、二人は列の左に加わる。
ガブリエルが前を向くと、腕を組んで騎士達の様子を眺める南騎士隊の隊長の隣に、鎧を身にまとった長身の女性が見えた。端麗な顔つきとキリっとした目つきは自然と他者の視線ひきつける。
「うわ~、風格あるな~。あの人が聖女様の親衛隊隊長さんですか。噂通り滅茶苦茶美人じゃないですか!よかったですね分隊長」
「少し黙ってろモルガナ。ユーリサス隊長に目付けられるだろ」
広間の前方で騎士達の様子を見ていたユーリサスは、ガブリエル達が列に並ぶのを見ると、組んでいた腕を解いて話し始める。
「よし、遠征組以外は全員揃ったな。本日皆に集まってもらったもらったわけだが、先だってのレーシン崩壊を受けて中央で防衛計画の見直しがあった。その変更内容について我々南騎士隊の役割に大きな変更があった故、ヘウルア親衛隊隊長のクロエ・カミリア様からその内容について説明をいただく。それと遠征から戻った二班はこの後ここに残るように。ではカミリア様よろしくお願いします」
ユーリサスはクロエに頭を下げると自身は列の右側につけ、他の騎士と同様に直立する。クロエは手帖に視線を落とすとパラパラとページをめくる。
「うむ。それでは新しい防衛計画について諸君ら南騎士隊、特にティージ常駐の者達に与えれてた役割を説明する。初めに言っておくが、この見直しを行うにあたって今上の聖女様が尽力なされている。くれぐれも聞き漏らしのないように。まず、…」
クロエは手帖を見ながら新しい防衛計画を淡々と読み上げる。新しい防衛計画の内容は他の町との連携の強化や法令の変更などのさほど労力にならないものもあったが、教会に騎士を常駐させる、加護の境界付近の見張りの増員、戦闘訓練などの時間や労力が必要な内容が大半だった。皆がその内容に困惑していると、その困惑を伝えようとユーリサスが手を挙げる。
「なんだクリプトメリア隊長、話の途中だが」
「新しい防衛計画についてなのですが、今の人員ではとても対処しきれない内容でみな当惑しているのですが…」
「案ずるな、人員については別に述べる。」
「愚問でした」
引き下がりつつも困惑するユーリサスに対しクロエは真顔で説明を続け、問題の内容、人員について話始める。
「では、人員についてだが、異端の者から徴兵する」
それを聞いた騎士達の表情は十人十色だった。”なるほど”と納得を示すものもいれば、苦い顔をするもの、無表情なもの、面白げに笑うもの、そして激怒キリギリの表情を浮かべるもの。
詳しい内容に入ろうとするクロエにガブリエルは
「それが中央の決定なのですか!」
っと横槍を入れる。すると慌てたモルガナがガブリエルの袖口を引っ張り、小声で耳打ちする。
「分隊長まずいですよ!隊長どころか親衛隊長に目付けられますって!」
クロエは引こうとしないガブリエルに向き直るとさも当然のように言い放つ。
「そうだ、足りない人員は異端達を動員することで埋め合わせる。我々正規の英雄達で防衛が回らないのであれば、彼らを使うよりほかあるまい。」
「彼らは悪魔の子ですよ!今回のレーシンの襲撃には悪魔が関与しています。
敵対する者を組織の内部に仲間として引き入れろというのですか」
各所から賛同の野次が上がる。異端と接する機会が他の都市よりも圧倒的に多いティージという都市においてもなお純粋な
「ふむ、ティージの騎士隊は稀に優秀な剣闘士を騎士として迎え入れることと聞いていたが、まあこうなるのか」
クロエは列に並ぶ茶髪の騎士に目を向ける。その騎士が気まずそうに目を逸らすと、クロエは整列する騎士全員を見回す。
「貴様らの中にこの決定に異を唱えるの者がいることは承知している。だが、この危険状態にあって我々が取れる手段など限られる。このまま実体の見えない敵を相手に押しつぶされるか、それとも毒を以て毒を制するかだ。そして我々は後者を選んだ。文句があるなら、それだけの力があることを今ここで証明してもらうが」
クロエはそういうと背中に背負った剣に手を伸ばす。クロエの手が柄に触れた瞬間、眩いほどの光が彼女の全身からあふれ出る。騎士達は手で顔を覆い沈黙する。
クロエが柄から手を放すと光は消えた。
「諸君らティージの騎士達には、アテナ全土での異端の者の捜索と、その訓練を行ってもらう。彼らを仲間だと認める必要はない、猛獣どもを飼い慣らせ。以上だ」
***
集会が終わると騎士達は慌ただしく広間を出ていく。そして広間にはクロエとユーリサス、そして遠征に出ていた二部隊、ガブリエルの分隊と茶髪の騎士の分隊のみが残った。
「では先にガブリエル。レーシンでの生存者と犯人について調査結果を報告しろ」
「はっ。レーシンでの生存者ですが、レーシンに配属されていた巫女と三人の住民以外の生存者は発見できず。レーシンで発見した遺体については火葬にて処理いたしました。として三人の生存者のうち一人は異端であることの確認が取れたためその場で確保、もう一人は異端の疑いがあったため事件に関連ありとしてあぶり出しを行いましたが、、、」
ユーリサスの命令に対してすらすらと報告を行うガブリエルだが、失敗という単語に言葉が詰まる。唇を噛むガブリエルの言葉をモルガナが繋ぐ。
「予想外の実力であったために取り逃し、現在追跡中です。また、同タイミングでとらえていた異端の青年が行方不明となったため、脱走者としてこちらも捜索を行っています」
「生存者が加害者側である可能性について言及していたが、それはどうなった。」
「巫女の聴取内容を踏まえると可能性は低いかと。ソーン・マンジュに関しては否定材料が不十分ですが、アーデン・クロイツとエルン・ラフレシアについては犯人とは無関係だと思われます」
「そうか、お前達が手を焼く相手となると人選を考えて直さなくてはな…。ではブンド。レーシン周辺の」
「そこの騎士はそれほどの実力者なのか?」
次に話をすすめようとするユーリサスに、今度はクロエが割って入る。
ユーリサスはクロエに振り向く。
「ええまあ、ガブリエルは能力を生かすための状況さえ整えば南騎士隊でも一二を争う実力者です。まあ、状況さえ整えばですが」
ユーリサスの返答に、クロエは「ほぉう」と口角を上げる。
「ではガブリエル、異端を取り逃がした罰だ、今すぐ私についてこい。お前が取り逃がした二人、さっさと捕まえに行くぞ。」
「クロエ様!?まだ報告が済んでいませんが…」
「緊急なら今言え、そうでないなら後回しだ。」
ユーリサスがブンドの方を向くと、ブンドは首を横に振る。それを見たクロエは二人を連れて騎士隊を後にした。
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