第31話
「デザインが気にいると良いのですが?」
信繁はニコッといきなり人なつっこく笑った
『〜〜〜〜〜うわぁーーー!!』
なんと突然の眩しいまでのキラースマイル!!
『もしも女性が今と同じ微笑みを急にパッと向けられたら、そんなの〜!!
ひーっと心肺停止、救命救急センターに緊急搬送だよっっ』
一体全体なんなんだこの人は!!
だから〜ギャップが激しすぎるっっ
ある時は妖気立ち上らす恐ろしい姿、そうかと思うと思わず俯いてしまう邪気の無いキュンキュンする甘い微笑み
「どうかされましたか?」
「〜いえ何でも…!」
素早い行き届いたフォローについ目線を落とし、箱の蓋を開けてみると中には
シャープなデザインのサングラスが1つ納められていた
「城特製、最先端素材の超強力紫外線カット仕様、だから安心して使って下さい
デザインは私が勝手に決めましたが
王子様のお体にピッタリ合う99.999%サンブロック効果の見込める長袖シャツは今、大急ぎでアパレル部で仕立てているところです
そうですねザッと、後一時間ぐらいで出来上がります
ちょっと不自由で済まないのですが?
この部屋で出来るだけゆっくり傷つき疲れた体を休めて欲しいと思います
紫外線の悪影響はありません
…以上、うちのボスからの伝言です」
「色々とお気遣い済みません」
「いえ、この度はーーー辛く大変でしたね
大変に立派な家臣団と、誇り高きお妃様でした
謹んで私からもご冥福をお祈り致します」
「ーーーーーー……」
暫く重い沈黙が降りた
「本当にそうです、全員立派な方達でした
もしも……自分が強く、貴方ほどの男だったら彼等を守れたかも知れません」
「ーーー……」
「僕は卑怯です
たった1人、この様におめおめ生き残ってしまいました
情けなく辛いです
男なのに愛する女性を護るどころか、妃……
キャシーに命を救われたんです
最低です
健康で賢い彼女の方が自分なんかよりもずっと、生きるべきだったと
”生きる価値があった”と
ーーーそう思っています」
……ポロッと
クリストファーの美しい菫色の瞳から1滴の涙が零れ落ちた
信繁は何も言わず長い腕を伸ばし、悲しみにくれる彼の銀色の髪をそっと撫でた
「…ウウッッッッ」
我慢に我慢を重ね、堪えにこらえていた涙がとうとう
哀しみの塊がワッと決壊した
泣いて泣いてーーーー
身体を震わせ
体力の続く限り、ただひたすら泣きじゃくった
ベッドの上掛けに顔を埋めシーツをぐしゃぐしゃに握りしめ髪を振り乱し
みっともなく声がかれるほどに泣いた
「ーーーーー……」
信繁はただーーーーー
そんな彼の頭を大きな手で優しく撫で
一切の何も言わず
無駄口を叩かず
唯ずっと静かに口を閉じ
荒れるクリストファーの側に寄り添い座っていた
ただそれが
信繁のそれだけが
彼にとってどれ程の心の支えになったか
ヒックヒックと嗚咽をしゃくり上げ心が張り裂けそうなクリストファーにとって、何よりもの有り難い優しさ、恩寵だった
それから
どれ程時間が過ぎ去ったかーーー…?
体感的には全くわからなかった
何しろ
時の流れが曖昧な異常な超常空間、奇妙すぎるモヤモヤの奇妙な気持ち
それでも漸く気分が安定した時、クリストファーはグルグル迷った
たった1つだけ、どうしても『聞きたい事』
それが質問として最後になったとしても、信繁に尋ねたい謎
非常に個人的な、プライバシーにおける事
超…重大な個人情報に触れる『疑問』があったのだ
『カンでしか無いけれど、この人なら微妙な僕の気持ちをわかってくれる気がする
ーーーそれに嫌なら、きっとはっきり、彼ならチャンと意思表示で言うだろう』
「あのう」
意を決してクリストファーはおそるおそる口を開いた
「何でしょうか?」
「どなたかお身内にいらっしゃるんですか?」
そう 僕ーーーーーみたいな
僕みたいな
厄介で迷惑な自分達の様な……
存在が
暫くお互いに無言だった。
が、最初に沈黙を破ったのは何と信繁の方で彼はニッコリ微笑みこう答えた
「そんなに怯えなくっていいですよ?
取って食ったり致しませんから」
「ーーーー」
「ホントですよ」
「でもあの森の時、かなり〜怖かったですよ?」
「それは失礼しました、悪かったですね」
信繁は大らかにアッハッハと笑い、今までとは全くうって変わった、ふざけて砕けた明るい口調に語調を変化させた
「ひょっとしてクリス様、今つまんないこと考えてません?
そうですねぇ、自分の事を例えばーーー
『迷惑な厄介者』だとか……?」
「!!!」
くすくすくすっと人なつっこそうな茶色の目が面白そうに笑う
それがまたなんとも言えず燦々とキュートな魅力を振りまく
思わず居たたまれず赤面する明るさ、微塵も邪気のなさ
地球を照らす恒星、太陽の光の様な輝き
たまんない〜〜!!
目がそらせず思わず見とれてしまった
それ程温かで気持ちのよい笑顔
「あのなぁ…そんな卑屈になるな
顔を上げて堂々としてればいいんだよ?」
信繁はアッケラカンと強く剽軽な口調で言い切る
「”綺麗で羨ましい”って言われるが俺も目がちょっと色素薄いからね?
だから、直射日光は結構苦手、眩しくて堪らない
よって体質に合う目薬もかかせない
自分ですらそうだからさ、眼が薄青系の人達って超大変だなぁ〜って思う訳さ
そりゃサングラスをいつだってしたがる筈さ!
実は俺の妹もーーー…
体質がクリス様と殆ど同じタイプだった
『アルビニズム』……
知ってる人間はどういう意味か、難しい生活状況
特徴的で目立つ姿形を知ってるんだが遺伝子疾患があったんだ」
「……」
「色々の治療法を求めたが現在の医療では自ずと限界があった
”どうして彼女だけそうなったのか?”の理由〜
大人達は様々な特殊な検査をしたが結局のところ原因は不明だった
当たり前だが、むろん誰のせいでもない
妹を産んだ母が悪いわけでも
夫である父のせいでも無い
誰が悪いわけでも、妹がいけないわけでも無い
『そういう個性ってだけだ』
シンプルに単純にそう思ったよ
皆同じだったら、ソッチの方がヤバくて〜むしろ気持ち悪くないか?
どっち向いても『自分と同じ』だなんてイヤだろ?
個人的な感想だが、俺はバラエティ豊かな方が好きだな
所長〜
上司は俺の『家族の事情』知っていたからクリス様に俺を差し向けたんだと思う」
『ああやっぱり』
クリストファーは真っ白な天井を見上げた。
「あった」〜というのはご家族から見て、彼女が無事にスクスク健やかに成長、今では少しは過ごしやすくなった〜
”おとなになって”自分で工夫して生き易くなった、肉体的に丈夫に育った
……という意味で受け取っていいのかな?
『良かった…!』
心の中で無邪気に嬉しげに解釈した
信繁はボソッと言う
「妹は兄の目で見ていても、本当にしんどい生活だった
個人差もあると思うんだが〜体も弱く熱を出しやすい体質でね?
やっぱどうしても全身に凄いストレスがかかるんだ
皮膚全部が純白ーーー
髪も体毛も色素の欠損のせいで全部金色、まるでおとぎ話のお姫様か妖精みたいだったよ?
瞳に色素が少しあるだけだったから、外出もう眩しいなんてどころじゃない…!
『妹の場合』では夏場なんか殆ど外に出られなかった
炎天下の海やプールなんて死にに行くようなもん
どんなに暑くても紫外線を跳ね返す特殊な長袖を着なければならない
おまけにジャパンは湿気が高いと来てる
兄として忍びなく、あまりに気の毒だった
そんで妹は好奇心が強く生来活発な性質だったから『可哀想だ』
俺がつい言った」
ちょっと言葉を切る
「妹はーーー…激怒したよ
『私は可哀想じゃないわっっ!!』
〜お兄ちゃんの馬鹿!!〜って、小さな身体をブルブル震わせて凄い勢いで言いかえされた
はっとしたよ?
ああ〜なんて傲慢だったろうってね
全部妹の言うとおりだった
な~君だってそう思うだろ?」
『この人が、どれ程…妹さんに惜しみない愛情を注いでるか!
今の些細な言葉だけで僕にはホントよくわかる!』
王太子はひっそりそう思った
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