13−2

『私ー……僕は優しい彼に嫌われている事を認めるのが、どうにも辛かったから…』


体ばっかり大きな臆病な自分勝手な子どもだったのだ


クリストファーはボンヤリ考える


もっとーーー……もっと話し合うべきだった

もう 言葉は彼に届かないのだろうか?


いつの間にか


ーーーあいつが……

自分に背を向け始めているのに薄々は気がついていた


ーーーでも……

王太子という立場と重大な職務

自分の気持ちを処理するのに精一杯だった



だからーーー罰が当たった

最愛の妻と、最高の友人とーーーー!

最悪の形で


同時に両方全て失ってしまったのだ〜と目頭が熱くなる



ウィンストンが悪いんでは無い

悪いのは絶対に僕だ


思慮の浅い愚かな自らが招いた、自業自得の結果だ


あんなに熱く大切にしていた気持ちが、こんな無残な週末を迎えようとは……!

ーーーこれっぽっちも

あの輝く日々……

向こう見ずだった15歳の頃は想像すらしていなかった


スーーーッとクリストファーの意識が遠くなる

瞼が重い

まるで鉛のようだ


でも懐かしいなぁ〜この香り

えーーっと……なんだっけ?


うーーん?


そうだ!! この香りは〜確か〜……


……〜 ラベンダーだッ!


間違いない!!


どれ位の永い間、この豊かな優しい香気を嗅いでいなかったか?



そういえば、アイツは…


『あれ以後』

ラベンダーの香り系を愛用していたのにクリストファーは突然気がつく



『全く〜全然思い至らなかったよ?』

どうして解らなかったのか……


様々な気持ちが

後悔が


甘やかな思い出が


残酷な記憶が



彼の脳裏に泡のように浮かんでは消え、消えては浮かび、精神を責め上げ胸を苦しくさせてゆく


オイデオイデとゆっくり手招きするーーーー

暗闇の中にトロトロと落ちこむ蠱惑的な甘い毒に似た眠りの中……


ひょっとしたらこの部屋にふんわりと優しく漂う『よい香り』の芳香の中


密やかに

ーーー睡眠導入剤が含まれているのかも知れない……な?……

彼はぼんやり霞む意識の中で感じた


トロトロの甘やかな香りと、心臓を突き刺す苦い後悔が引き金になったのか


 

白い白い無重力ベットの清潔で安心する手触りのよい純白のシーツに包まれ……て


自分しか知らない心の最も深い最奥にしまっていた〜


懐かしいが 


……どこかヒリヒリする甘く切ない、優しいひとときの自分達の子どもの頃の夢を見た




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