第6話 唯依
それ以来、唯依は私の部屋に来ることも、連絡を入れてくることもなくなっていた。
ストレスが溜まったまま心が晴れなくて、私はゆかりのバーに飲みに出る。
なんとなく今は相手を求める気はなくて、バーで知り合いと騒いで、一人で帰るが何回か続いていた。
「七海、最近唯依と何かあった?」
「理解できないことが分かったので、絶縁しましたけど。元々そんなに親しい間柄でもなかったし」
「あの子は……」
ゆかりは深い溜息を吐く。その様は唯依を家族として見ていることを示していた。
「ゆかりはあの親子が嫌にならないの?」
「瑛梨のことは愛してるし、唯依はちやほやされて育つとああなるのかなって、多少可哀想な部分もあるんだよ」
「だからってやっていいことと悪いことがあるから。あのこ、私に瑛梨さんとゆかりで3Pすればいいとか言ったんだよ」
それにゆかりは乾いた笑いを出す。
「ごめんね」
「全く理解できないから」
「多分唯依はワタシが邪魔で仕方ないんだろうね」
「母親の恋人だから?」
「そう。瑛梨は恋多き女性だけど、一緒に住むのはワタシが初めてって言ってたから、多分相当ストレスなんじゃないかな。一時期家を出ていたこともあったけど、戻ってきてからはワタシのことをほぼ無視だしね」
「ただ唯依が子供なだけってことじゃない」
「そうだね。それをどうにかしてあげたいんだけど、ワタシは全面的に嫌われてるから、もし七海が唯依と仲いいならお願いしたいなって思ったんだけどな」
「悪いけど、面倒見切れない」
そうか、とゆかりはまた乾いた笑いを出す。
好きな人に、つき合っている相手の子供が手に負えないから協力して欲しいなんて、言われて嬉しいわけがない。初めから私と唯依は全く合わないかったし、できればもう関わり合いたくないのが本音だった。
「ワタシが瑛梨と別れれば気が済むのかな、あのこは」
「別れる気あるの?」
「多分無理かな。どちらかというと本気の恋人をあのこには見つけて欲しいんだけど、いい人いない?」
「あれに耐えられる人なんか滅多にいないから。一人だけ心当たりがあるけど、もう唯依は浮気をしてその人と別れて、さらにその人には新しい恋人ができてるから無理です」
水上さんなら根気強くつきあってくれたかもしれないと思ったものの、友人の幸せを壊してまですることではない。
「そっか……じゃあ、しばらく七海がうちに住むとかどうかな?」
「全然意味分からないんだけど」
「だめかぁ」
「それ、私に唯依の生け贄になれって言ってない?」
「……もしかして七海、唯依としたことあるの?」
失言だったな、と思いながら、襲われたと答えておく。
「ごめん。ほんと、どうにかしないといけないな、唯依は」
「放っておいたら駄目なの?」
「一応瑛梨に頼まれてるからね。唯依がこのバーにしか来ないのも、瑛梨との約束なんだ。お目付役の目につくところで火遊びはしろっていうね」
「聞けば聞くほど親子関係が原因な気しかしないけど、そっちをどうにかしたら?」
「それができればね」
そう言ってゆかりは溜息を吐いた。
「唯依は母親の愛情を求めてる?」
「多少はそういう所があるかもしれないけど、母親に対してと言うよりも唯依は自分なんか誰にも求められてないって思ってるんじゃないかな。ちょっと複雑な事情で生まれて、母一人子一人で育ってるから。瑛梨はお世辞にも母親らしい母親じゃないしね」
「それはゆかりが住むより前からってこと?」
ゆかりは肯きを返す。
「ワタシが気にくわないのは、単に目についた母親の傍にいる存在だからってだけだと思ってる」
「しばらく瑛梨さんと唯依の二人で住ませたら?」
「それは多分瑛梨がノーって言うから。そうだ、再来週は唯依の誕生日なんだけど、その日に一緒に出かけない? 近場でいいから泊まりで。瑛梨は流石に唯依の誕生日くらいは唯依につき合うはずだし、ちょっと二人きりにさせてみてもいいかも」
「襲ってもいいってことなんだ」
「七海はそんなことしないこだって信じてるから。それでも一緒の部屋が嫌なら別々の部屋取るから、仕事休めない?」
「調整してみる」
残酷なことを言う元恋人だと思ったものの、それでも嬉しい思いはあった。
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