第5話 興味

瑛梨さんは、正直に言って興味を惹かれる存在だった。


それでも以前唯依は、母親がゆかりの恋人だと言っていた。


瑛梨さんは、なんとなく複数の恋人を持つことに抵抗はなさそうだと感じていたけど、私はゆかりと瑛梨さんを取り合うようなことはしたくなくて、その日ゆかりのバーを訪れていた。


「ちょっとご無沙汰だったね」


「いろいろあってばたばたしてたから、かな」


「そっか」


それ以上ゆかりは深入りしないのはいつものことだった。もう私とゆかりの関係はバーの常連とバーテンダーでしかない。


最近唯依がよく家に来るので、バーにもなかなか顔を出しづらかったなんて言えば、ゆかりはどういう顔をするだろうか。


「この前、瑛梨さんと飲んだよ」


「瑛梨と? どこで知り合ったの?」


「唯依に紹介されて……瑛梨さんってゆかりの恋人だよね?」


それにゆかりは肯きだけを返す。


「また会わない? って、今誘われてるんだけど」


「そう……」


「誘いに乗ってもいい? 乗らない方がいい?」


「それは七海が決めることでしょう?」


「それでいいんだ、ゆかりは」


「……いつものことだから」


やっぱり私が感じていた通り瑛梨さんは恋多き女性で、ゆかりもそのことは認識しているということだった。


「じゃあ誘われたら応じてもいい? 瑛梨さんとゆかりが愛し合ってるベッドで、私も瑛梨さんに愛されてもいい?」


「…………」


「そんな顔するんだ、ゆかり。嫌なら嫌って言えばいいのに」


「言っても聞いてくれる人じゃないから」


それでも離れられないのだとゆかりは言っていて、ゆかりが私の元に戻ってきてくれる見込みが薄いことを示している。


「どうしようかな」


忘れられない相手の今の恋人と関係を持つか持たないかで悩んでいるなんて、私は行き詰まっているとしか思えなかった。


瑛梨さんに抱かれることはできる。でも、それで何が得られるのだろうか。





瑛梨さんからの誘いには結局断りを入れ、断った翌々日の夜にいつもの唯依のゲリラ襲撃がある。


「何で断ったの? 七海の好みでしょう?」


部屋に入って来るなり、唯依はもうトップスピードだった。どうやら瑛梨さんから私が断ったことを聞いたのだろう。


「ゆかりの恋人とつき合えないから」


「何、聖人君子みたいなこと言ってるのよ! そんなの奪ったもの勝ちでしょう!」


「唯依はそういう考えだって知ってるけど、私はそうじゃないから。唯依が何を考えてたのか知らないけど、あなたは本気で人を愛する気なんかないでしょう? 人を愛することを知っていたら、こんなことをするはずがない。

私は今でもゆかりが好きだし、何かのきっかけでゆかりが戻って来てくれないかって思っているけど、ゆかりの幸せを壊したいわけじゃないから」


「あの人の浮気なんかしょっちゅうだからゆかりも慣れてるわよ。いいじゃない、あの人とつき合えばゆかりと3Pだってできるわよ」


「巫山戯ないで。唯依と何を話してももう理解し合えないことは分かったから、二度とこの部屋にも来ないで。水上さんとササもつきあい始めたし、もう唯依が介入する隙なんかないから」


「…………」


「納得いかないんだったら、殴り合うでもいいけど、私は」


「…………わかった」


頬を膨らませてふてていたものの、唯依はそのまま踵を返して玄関から出て行く。


もう唯依につき合う理由はないし、いいきっかけだと私は思っていた。

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