第3話 提案

「あなたに私の何が分かるのよ!」


「知らない。興味ないし。大したことない女をいつまで追いかけてるバカな女としかわたしには映ってないから」


私はまだゆかりのことを引きずっている。それを今日初めて会話をした相手に指摘されて、更に怒りは増す。


「あなただって、手当たり次第に食い散らかしているだけじゃない」


「わたしは恋多き女なだけ。あなたみたいにあてつけでつき合ってるわけじゃないから」


怒りが沸点に達して私は目の前の存在の胸ぐらを掴んだ。


「殴っていいわよ」


身長は同じくらいの存在を真っ直ぐに睨み付けると、向こうには余裕があって余計に腹が立つ。


「殴ったら殴り返す気でしょう?」


「もちろん」


しばらく睨んではいたものの、バカらしくなって私はその存在を解放する。


殴ったら自分が負けな気しかしなかった。


「あなたが誰を食おうが口出ししないけど、水上さんとササだけは手出ししないで」


目の前の存在にあるのは敵か味方かという判断しかないような気がしていた。


そんな相手と何を話しても交渉の余地があるとは思えなくて、本来の用件だけを済ませることに専念する。


「バカじゃない、あなた。所詮他人事でしょう? あなたがそんなこと言って何の得になるのよ」


「ササは大事な友達だから損得の話じゃないから。友達のいないあなたにはそんな気持ちわからないでしょうけどね」


「わかったわ。じゃあこうしましょう? あなたがわたしに体を差し出すなら真凪まなには手出しをしないにするわ。できる?」


真凪は恐らく水上さんを指すものだろうとはわかる。ただ、提案内容は明らかに常識を逸脱していた。


「巫山戯ないで」


「大事な友達なんでしょう? 口だけの薄っぺらい友情なんだ?」


売り言葉に買い言葉で、友情をバカにする存在が許せなくて、その日、私は悪魔的な美人に一方的に抱かれることになった。





藤木ふじき唯依ゆい


それが私が体を差し出した相手の名前だった。


セックスをしてる最中に名前を知ったなんて、私たちの関係からすれば不思議でもなかったけど、相手が切れたことがないと言う唯依は上手くて、正直に言って気持ち良くはなれた。


それでも悔しくて、私はせめてもの反撃の意味で唯依の首筋に噛みついて歯形を残す。恐らく今も唯依には恋人はいるはずで、これを見て拗れるのであれば拗れればいいとさえ思っていた。


「そういうことするんだ」


お返しとばかりに、唯依も私の首筋に噛みついてくる。


自分でしておいてだけど、そんなことをされたのは初めてだった。私が今までつき合ってきた相手は、大人でそんな子供じみたことはしない人ばかりだったのだ。


それから唯依は時々やってきて、一方的に私を抱くようになった。口を開けば口論になるだけなので、家を訪れた唯依とやることと言えば文字通りやるだけだった。


平行してササから水上さんとつきあい始めたという報告が届いていて、やっと纏まったかと安堵はしていた。


もう私が唯依に体を差し出す必要はなくなるということだった。それでもやってくる唯依をわたしは拒否できないでいる。


一つは私に今恋人がいなくて、それなりに性的欲求を解消したいと思っていること。


もう一つは、唯依がこの行為を続けている理由が分からないからだった。


一度きりで飽きるだろうと思っていたのに、唯依は私の家に欲望を満たすためにやってくる。

唯依も今はフリーなのかもしれないとしても、唯依ならばもっと魅力のある存在に声を掛けて、相手を捕まえるなんて簡単なはずだった。


私は唯依を甘やかす存在でもないし、それほど体に魅力があるわけでもない。それに、そもそも唯依はネコだと思っていたのに、私を抱く手は慣れていた。


嫌がる存在を組み伏せるのが愉しいのだろうかと、二回目以降は唯依とのセックスには素直に従ってみたものの、相変わらず唯依は私の部屋を訪れているので、単に有り余った性欲なのだろうと見なすことにしていた。

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