12 復讐のはじまり
「なんだよ、あれ……」
「叶の言ったとおりだ……」
ゴォン、バリバリ、と轟音は立て続けに二つ、三つと続きその音と同時に紅(あか)い柱がそびえ立ち土煙をまき散らして家を貫いた。爆発はだんだん此方の方へ近づいてきて、その度に見慣れた村の風景が壊されていく。熱風が顔を叩き、あまりの暑さに顔を背けて一歩、また一歩と後ずさる。連日の暑さとは比べものにならない、皮膚が焼けるような猛烈な熱波が立て続けに身体を焼き、濡らしたばかりの服はあっという間に乾いてしまった。
全てが消え、十四年の思い出が今この瞬間遠い過去になっていく。熱風が最期を伝えに来た。
「ざまあみろ、クソ人間ども。ははっ……」
サーティーン、いつも欲しい言葉をくれる皆の兄貴。いつも無茶ばっかり言ってごめん、大人だけど一緒に遊んでくれたのが嬉しかったんだ。俺もうちょっと大人になるから、サーティーンの好きなことを教えてよ。
「――」
兄貴、行かないで。まだ言いたい言葉がたくさんある。
「――!」
皆のいない世界なんて意味が無いのに。
「生きろ!」
「どうやって生きてけって言うんだよ、そう言うならお前らも一緒に生きてくれよ」
今更謝ったって変わったって、手遅れだ。もう二度と聞くことの出来ない銘々の声と地響きが心臓をグラグラ揺らし、黒い煙を上げる。咆哮の度に村は知らない形に変わっていた。住み慣れた家は内側からはじけ飛んで火を放ち、隣に引火してまた爆破した。
「あああああっ!」
今度の悲鳴はすぐ隣から聞こえた。
「龍!」
炭のように赤く焼けた小さな木片が左頬に直撃したのだ。押さえた左手の下が真っ赤に爛れている。顔を背けていなかったら目に当たっていただろう。冷やさなきゃ、龍まで失いたくない、と俺があたふたしていると目の横を押さえた龍に手首を引かれ森へと走らされた。
「そうか、家が全部高床になってたのは全部……下に爆薬を仕込まれていたから……」
龍は全部理解したようで、火傷のことなんかよりもつながったパズルのピースを見て崩れ落ちそうだった。
「大丈夫か」
「こんなの皆に比べたらなんともないよ……」
どうして、どうして? 俺達が何をしたって言うんだ。病にかかっただけで「可哀想に」と口先だけ哀れみ、笑いながら殺していく
憎い。
憎悪、怨嗟、長恨、そんな言葉では表せないほどの強い負の感情が小さな身体から溢れだし止めどなく流れだす。爪の刺さった手のひらから血が滲み、切れた歯茎からじわじわと血の味が腔内を満たしていく。
「殺す、殺すッ! 絶ッ対殺してやる!」
手を引かれあんなに怖かった森の中へ初めて足を踏み入れたが、今は全く怖くなかったことに目を見張る。こんなものを十四年ずっと恐れていたのか。
日陰になって暑さが嘘のように消え去った。地面は落ち葉だらけ、踏むだけでぐにゅりと沈み込む。森は村とは空気がまるで違い、気持ち悪い柔らかさで足を掴んだ。そうやって村のことなんて蚊帳の外のように振る舞うものだから俺は一瞬で森が嫌いになった。
消えてしまえこんな世界なんて!
この世界の全員死ねばいい!
俺の家族だけなんて絶対に許さない。
爆発音がひときわ大きく聞こえた。
振り返った視線の先で、毎日通ったなじみ深い家が跡形もなく崩れていった。土煙の中に人影が一つ。
「叶ぁぁぁぁぁあああ!」
煙に隠れてもう一度見たとき、それは元の形を忘れてしまっていた。
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