3章:暗躍の王都
魔人兄妹は街に降り立つ
――その日、王都メダリアは騒然となった。
港湾都市セルリオに行っていると噂されていた、【黒虹の勇者】ことユウジ・ブレイブス・モノクロームが、【
行方不明になっていた、600余名を引き連れて。
一瞬にして驚愕と混乱の坩堝と化した中央広場に周辺を巡回していた騎士たち、次いで回復魔法を専門とする治癒師たちが駆け付け、昏睡している人々の手当てをし始める。
その渦中から、認識阻害を展開しながら走り去った者がいたことには、誰も気付くことはなかった。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️
「――取り敢えずは、首尾良く離れられたな」
広場の外周へと逃れたクロは、一息つきながらそう言った。
「手伝わなくて、いいのかな……」
イロハが、昏睡している人々を慌ただしく広場から運び出す騎士たちを目で追いながら呟く。
「問題ないだろう。むしろ、今下手に加勢すれば彼らの連携を乱してしまいそうだ」
「それは……確かに」
実際救護にあたる騎士や治癒師たちは一切の無駄がない統率された動きを見せており、外野の立ち入る隙間はなさそうであった。かなり
召喚された勇者とその仲間たちによって撃退されるまで、このブロンザルト王国に住まう民は皆日常的に魔王軍の脅威に曝されていた。それを考えれば、住民たちの救護に関する練度が上がるのもむべなるかなというところだった。
そしてその勇者ユウジはというと、広場の中央にある大噴水のそばで、虹の光を使い複数の大人を運びながら、小柄な黒いシスター服の少女へ耳打ちをしていた。
ウィンプルから覗く銀の髪と、深い蒼の瞳。外見年齢はイロハと同程度の14、5歳といったところ。勇者パーティーの一角、【
(彼女が……話に聞いていたミラ・エドワイズか)
クロはそこで、虹に乗っていた時のことを思い返した。島を飛び立ってから数分経った後、最後尾を飛んでいたユウジがクロの隣にやって来てこう言ったのだ。
『クロくん。王都に着いたら、多分俺はしばらく事情聴取だのなんだので身動きが取れなくなると思う。だから、クロくんとイロハちゃんのことは、ミラにお願いするつもりだ。彼女ならきっと、力になってくれるはずだよ』
『ミラ?』
『ああ、ミラ・エドワイズ、俺の仲間だよ。綺麗な銀の髪と蒼い目のシスターだ。見ればすぐに分かる』
『了解した。ちなみにあんたの聴取はどのくらいかかる?』
『うーん……それは俺にもちょっと予想出来ないな……多分国王陛下にも説明を求められるだろうし……数日は見た方が良さそうかな』
『……国王に、謁見するのか?』
『間違いない。それはもう根掘り葉掘り色々と聞かれるだろうさ』
不味い、と、クロは思った。島での出来事を国王に話すとなれば、当然ながら協力者たるクロとイロハのことも知られてしまうことになる。勇者に細かい素性を話してはいないためすぐに正体がバレることはないにしろ、“勇者の協力者”として国王に認識されたが最後、後々厄介な事に巻き込まれるであろうことは火を見るより明らかだった。それが巡り巡ってゴルディオール軍の耳に入らないとも限らない。
そう考え、クロはユウジにこう言った。
『それなら、俺たちの手柄はいらない。虜囚となっていた人々はあんたが1人で助け出したことにしてくれ』
『え!?それは流石に申し訳ないよ……君たちにも褒賞があるだろうし』
『いいんだ。あんたが俺たちのことを話さないでいてくれる方が、余程ありがたい』
クロの隣で、イロハもコクコクと頷く。その様子を見て、ユウジは提案を受け入れたのだった。
「にぃ様、にぃ様」
イロハにコートの袖を引かれ、クロは回想の海から現実に意識を戻す。石畳に横たわっていた人々はほとんど運び出されており、騎士や治癒師たちの姿もまばらになっていた。勇者の姿も既になく、耳打ちされていたミラ・エドワイズが兄妹の元へ真っ直ぐ歩いて来る。看破魔法を使って兄妹の認識阻害を破ったのか、その歩みに迷いはない。
(勇者様よりお話は伺っております。どうぞ、私に着いて来て下さい)
目の前を通り過ぎざまに小声で兄妹にそう言葉を残し、ミラは近くの建物に入って行く。それは屋根の上の立派な鐘突き堂が目を引く、厳かな雰囲気の建物――教会だった。
兄妹は顔を見合わせて頷き合い、ミラを追って教会に入って行った。
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