魔人兄妹、交戦 続
台地の様相は一変していた。
魔人1号が放った魔法、【
しかし、予想していた手応えは感じられなかった。魔法が防がれた感覚もなければ、クレーター内外にクロが転がっている訳でもない。攻撃範囲外にいたイロハは相変わらず気を失って端に横たわっている。
(さて、奴は何処だ……?)
静けさが支配する大空洞を、魔人1号は油断なく見回す。あの脱走兵には確かに火力はない。だが、どうにも手札の底が見えなかった。
(得物は非金属製の短剣、使って来たのは雷系統の攻撃魔法に付与魔法。度々見せる認識阻害。果ては
2人を追跡する前に、もちろん魔人1号は施設の資料を参照して兄妹のスペックを頭に入れて来ていた。脱走を受けて更新された情報によれば、妹の方は風系統の大出力魔法を行使し、兄は出力こそ乏しいもののおよそあらゆる系統の魔法が使える万能型であるという評価だった。
出撃直前にガイオスからは気を付けろと念を押されていたが、正直な所、魔人1号はさして問題はないだろうと考えていた。何しろ直前に降した将軍級――序列30位、【死纏】のヴァルサゴと名乗る頭蓋骨だった――が2人を合わせたような能力を有していたがために。
そしていざ捕捉してみれば、火力担当と目された妹は運悪く崩落に巻き込まれたのか既に戦闘不能という状態。負ける
しかしクロと実際に相対したことで、魔人1号は警戒レベルを上げる必要があると感じていた。“出力こそ乏しいもののおよそあらゆる系統の魔法が使える”、とは、言い換えれば“出力さえ絡まないのなら何をしてくるかわからない”、ということなのだから。
「上か!!」
クロの気配を捉えた魔人1号が頭上を振り仰ぐと、天井に空いた大穴の端から、黒コートの人影が降ってくる所だった。クロは不気味な紫色の液体が塗られたナイフを両手で振りかぶりながら、真っ直ぐに魔人1号目掛けて高速で落下していく。
「馬鹿め!わざわざ認識阻害を解いて来るとはな!!」
急襲して来るクロへと、魔人1号は左手を翳す。落下スピードを考えると
例えば、
「だったらてめぇはこれでしまいだ――【
魔人1号の腕から12枚の結晶状の鱗が飛び立ち、落下するクロを取り囲んだ。鱗は光の線を放って互いを繋ぎ合うと、直後に六角柱型の結晶体と化してクロを閉じ込める。魔人1号のオリジナル魔法【
――――はずだった。
封印が完成したその時、クロの全身を捕らえていた結晶全体に亀裂が走り、粉微塵に砕け散ったのである。黒衣の脱走兵を虜囚とし損ね、結晶の破片が無念さを滲ませながら最後の輝きを放って消えていく。
「な!?」
想定外の光景を前に魔人1号は目を見開く。何事もなかったかのように落下を続けるクロとの距離は残り数メートルもなく、魔人1号は驚愕を振り払うと左爪による神速の抜き手を繰り出した。
しかし次の瞬間には、魔人1号は再び己の目を疑うこととなった。
結晶に覆われ竜の物となった左爪がクロの胴を穿つその刹那、クロの姿が搔き消え、瞬く間に爪の間合いの内側に再出現する。
クロはそのまま魔人1号の右の鎖骨付近、鱗に覆われていない生身の部分へナイフを振り下ろすと、魔人1号を蹴り飛ばして刃を引き抜きつつ後方へ宙返りし、クレーターの地面へ着地した。
「て、めぇ…………!」
肩口を押さえながらノックバックした魔人1号が、荒く息を吐きながらクロを睨み付ける。溢れる怒気と戦意を隠そうともせず、魔人1号は攻撃魔法を準備しようと魔力を励起させた。
だが、それが形になることは、ない。
「……ぅ!?」
うめき声を発し、魔人1号は額を押さえながら片膝をついた。視界が霞み、意識が急速に遠退いていく。
やがて魔人1号は、静かにその場へ倒れ伏した。
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