魔人兄妹、臨戦
天井の崩落は、およそ半径30メートルに及ぼうかという規模のものだった。大空洞の直上が
そしてその破壊の中心で、岩盤を貫いた左腕の爪を無造作に台地から引き抜く者が、1人。
紺色を基調とした帝国軍の軍服を身に纏う、青みがかった銀の髪と瞳を持った少年。顔立ちこそ何処にでもいそうな雰囲気だったが、左半身を中心として体の各部を覆う鱗状の結晶体と、背中から飛び出した水晶のような質感の翼が強烈な威圧感を放っている。
全ての魔人の祖にして、クリスタルドラゴンの力を宿す者。数多の魔物を葬りし、帝国軍の切り札。
魔人1号。
「いやぁまさか……こんな場所があったとはな。フィールドワーク組が目ん玉ひん剥くんじゃねぇかこれ?」
何処か楽しげな口調の魔人1号からは、膨大な魔力の気配を感じ取れた。見た目にはわからないが、多量の陽光が充填されているらしい。
「さて不出来な後輩共、隠れんぼはおしまいだ。神妙に縛につけ」
魔人1号が睥睨する先に、兄妹の姿があった。内イロハの方は額の端に血の筋を作ってぐったりとしており、立て膝を突いたクロが抱き止めるような格好となっている。
「樹海の時と言い強引な奴だな……まさか階層全部を突き破ってくるとは、
表情の消えたクロに対して、魔人1号は鼻で笑いつつ、
「ちまちました魔法は性に合わねえんだよ。それとバカ正直に順路を通ってやる義理もねぇ訳だしな。それよりそいつは既にダウンか?手間は省けるが興醒めだぜ……」
「おかげさまでな…………この借りは、高くつくぞ」
クロはイロハを台地の端に横たえると、コートのポケットから2本のナイフを引き抜き、片方の切っ先を魔人1号に突き付ける。射貫くような視線と、トーンの落ちた声色。溢れる怒気を、隠すつもりはないようだった。
「悪いことは言わねぇ……皇帝陛下の慈悲で、今なら
「その代わりに、せっかく手にした自由を捨て去れと……?冗談じゃあないな」
「……自由?」
魔人1号は、心底呆れ果てたというようにため息を吐く。
「そもそもそんなものを手にする権利が
結晶の鱗が輝きを増す。蓄えられた魔力が励起し、魔人1号はふわりと地を離れて空中に静止する。
「最終通告だ、いつまでも下らねぇ夢見てないで自分の義務に戻りやがれ。
「断る。考える権利も、選択する権利もないまま飼い殺しにされるのを良しとするくらいなら、俺は異端な愚者であることを選ぼう」
「そうかよ」
それを返答と受け取った魔人1号は、両腕を勢いよく真横へ伸ばす。その動作と連動するように、数十に及ぶ光の玉の群れが展開された。
それは、破壊の嵐を呼ぶ、純白の砲口。
「だったら直接身体に叩き込んでやるしかねぇよなぁ!【
宙を埋め尽くす球体群が、一斉に爆ぜる。光系統の初級魔法【
逃げ場は最早なく、高い貫通性能のせいで防御もままならないという、兄妹を初手で叩き潰すために放たれたその魔法は、
発動した瞬間、一斉に
「――は?」
一瞬発生した光の大瀑布が、台地の表面を広範囲に渡って抉り取る。粉塵のスクリーンが互いの視界を覆い尽くす中、魔人1号は思わず間の抜けたような声を出した。
その隙を突くように、立ち込める塵を切り裂いて2本のナイフが飛翔する。弧を描きながら、魔人1号を左右から挟み込むように。
舌打ちを残し、魔人1号は後方へと回避行動を取る。そのタイミングで――
「――ッ!!」
「――ァ!?」
粉塵に紛れて背後を取っていたクロが横薙ぎに振るったナイフの刃が、迸る電光を伴って魔人1号の翼の付け根を直撃した。
まるで金属に刃を立てたかのような衝撃が、クロの右腕を駆け登る。オニイトハキの牙を研ぎ澄ました刃が欠けることこそなかったが、翼の方にも傷は入っていない。
「ナメるなぁ!!!!」
振り向き様に、魔人1号が左腕を振るった。結晶体の鱗に覆われたそれは、最早竜の鉤爪と遜色ない切れ味と膂力を誇る。
クロは【
そこへ、青白い燐光を湛えた左腕を振りかぶりながら魔人1号が突貫する。クロは一瞬早くその場から飛び退いて爪の一撃を回避したが、振り下ろされた爪の軌跡は空中に残留し、直後に爆発を起こした。魔人1号の固有魔法【
爆発で飛び散った瓦礫の破片を姿勢を低くしながらの横移動でかわしつつ、クロはポケットから取り出した土を振り撒いていく。
そこへ――
「『我は太陽の簒奪者。
陽光を圧縮した巨大な光球が、台地の表面を一直線に削り飛ばしながら襲い掛かった。
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