魔物たちは撤退する
特に右胸の枝は身体を貫通しており、バルファースを木の幹に縫い止めていた。どうやら風の津波に吹き飛ばされ、その先で磔になってしまったらしい。
「無事か?バルファース」
足元にやって来ていたエルフリードがバルファースに声を掛ける。その巨体は炎を纏っておらず、右手には銀色の
「見ての通りだ。問題はねぇよ」
投げ渡された
痛みに顔をしかめることもなく、淡々と、草むしりのような流れ作業で抜き続ける。
「奴らは?」
「例の面妖な目眩ましを置き土産に森の奥へ逃げた。方向までは判別出来ん」
バルファースは舌打ちし、右胸の枝を抜いて放り捨てた。鮮血が噴き出すがそれも一瞬。バルファースの頭から生えているねじれた角が金色の光を放つと、全ての傷が一斉に塞がってしまった。傷があったという痕跡すら残っていない。
「先ほど撤退命令が出た。“晶竜擬き”がこちらに急速接近中らしい」
「イヤなタイミングで勘付かれたな……」
晶竜擬き、とは、魔物たちの間での魔人1号の呼称だった。ゲリラ的に戦場へと現れては、
「一応近くにいたメタリカが撃退に向かったようだが」
「オーケー足止めは期待出来ないってことはよく分かった。業腹だが、ここは素直に従っておく」
バルファースは
「それに不安要素がない訳じゃねぇしな……お前も感付いてはいるだろ?奴らが晶竜擬きの同類だってことに」
「そうだな……確かに奴らは魔晶をその身の内に宿しているようだった」
エルフリードは腕組みをして瞑目する。思い浮かべたのは、先程一帯を破壊し尽くした少女が放った魔力。
「かの少女の魔力は……どうも我が友ジルヴァンのものに酷似していたように思う」
「あの島国かぶれのフラフラ野郎か」
バルファースの脳裏に、将として迎え入れたいという魔王の要請を頑なに固辞し続けた、とある
「奴程の実力者まで葬られているとは到底信じられぬが……」
「それを言うなら
「シャルロテか……彼女と矛を交えたことはなかったな」
今度はエルフリードが、とある
「いやそれで正解だったと思うぜ。多分お前じゃ秒殺だ。実力どうこうじゃなくて相性の問題でな」
「なんと……」
聞いたエルフリードが驚きの声を漏らす。仮にも
「正直俺も無対策ではかなり怪しい。だから、晶竜擬きのように
「……であれば、撤退命令が出たのは渡りに船と言ったところか」
「そういうことだ」
バルファースはひとしきり身体を動かしたあと、エルフリードを伴って施設から離れるような方向へ歩きだした。
(首を洗って待っていやがれ……)
次に会う時は逃がしはしない、と、決意を固めながら。
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