フェイズ6――真相

 海上に顔を出した矢作は大きく息を吸った。塩水が口に入り込んで、一瞬むせる。

 波は、オスプレイから見た以上に高かった。頂上では視界が開けて海面を見渡せるが、底に落ちれば頭の上に波が覆い被さるような恐怖を覚える。だが、静かだ。激しいエンジン音に包まれていた矢作にとっては、まるですべての音が消えたような気がした。

 ゆったりとしたうねりが矢作の身体を上下に揺さぶる。海水を吸い込んだ衣服が重い。水温はひんやりしているが、凍えるほどではない。身体にも異常は感じない。救助を待つ余裕はある。矢作は立ち泳ぎで身体を支えた。時折、波の向こうに神崎の頭が見えた。

 神崎もまた、無事なようだった。

 空を見上げる。彼らを追ってきた二機のオスプレイが上空で静止していた。被弾した機体が尾翼付近から煙を出していたが、飛行に支障はないようだった。なぜか、周を追うことはやめている。

 上空には、数機のジェット機が舞っている。だが彼らも、二つに分かれて反対方向に去っていく……。

 ゲームセット――のようだ。

 声がした。

『作戦終了だ。完璧な仕事をありがとう』

 矢作がつぶやく。

「あんた、どこにいるんだ? そこのオスプレイか?」

 頭の中の通信機は機能する範囲が狭いはずだ。海上で電波が届くなら、〝社長〟がいるのはオスプレイの中しか考えられない。

 だが〝社長〟は言った。

『いや、通信を中継させてるだけだ』

〝社長〟は自衛隊の組織を自由に操っているらしい。やはり正体が掴めない。〝社長〟とは何者なのか……?

「じゃあ、あいつらに迎えにくるように言ってくれ。波に揺られてると吐き気がしてくる」

『泳げるんだろう? この季節なら一時間浮いてても死にはしない。もうしばらく待ちな』

「待つって……何を?」

『あと一〇分もしたら、そっちに着けるそうだから』

「着くって……海のど真ん中だぞ?」

『あたしらも、そこにいるんだよ』

 きっかり一〇分後、彼らが浮かぶ海面の脇が、まるでクジラが浮上してきたかのように盛り上がった。

 現れたのは、巨大な潜水艦の艦橋だった。

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