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 黄は、自衛隊機が追跡を中断して反転したのを確認した。なぜか、F35部隊は唐突に戦闘空域から去っていったのだ。追手のオスプレイも、被弾した一機を守るようにその場にホバリングした。まだ公海上であるにもかかわらず……。

 まるで『今日の仕事はもう終わった』とでも言いたそうに……。

 彼らの機影は、一瞬で視界から消え去った。

 確かなのは、日本が〝意図的〟に追尾を放棄したということだ。自衛隊は、逃げるオスプレイを、乗員に危害を与えずに撃墜できる装備も技術も持っている。それを阻止するために黄が派遣されたのだ。周の拉致を本気で防ごうとしているなら、立ち去るはずはない。

 日本は、そしてその陰にいる合衆国は、周金幣が中国に戻ることを容認したようだ。だがそれが意味する〝目的〟が読めない。

 今の今まで日本の〝某所〟に閉じ込めて、徹底的に隠そうとしていたはずなのに……。

 なぜ、この瞬間に、手のひらを返したように周の身柄を放棄するのか……。

「なぜだ……なぜ追ってこない……?」そして、自分たちが命令を破って発砲したことに思い当たった。いきなり、言いようのない不安が沸き上がる。「俺は取り返しのつかない間違いを犯したんだろうか……? これは、自衛隊の罠なのか……?」

 黄の恐れは的中していた。その真の意味を知るのは、基地に帰投した後だったのだが……。

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