12

 矢作の身体は不意の旋回で椅子から投げ出されそうになった。足を踏ん張って耐える。

 神崎に向かって叫ぶ。

「何だ⁉」

 ヘッドフォンからの情報に聞き入っていた神崎は、矢作を無視して迷彩服に命じる。

「二機のオスプレイに補足された! 後部ランプの銃座を開いて、迎撃態勢を取る!」

「高速飛行中は無理です!」

「間もなく迎えが着く! それまで耐えるんだ!」

「速度は落とせません!」

「落とせ! このままでは鼻先を抑えられる。多少速度が落ちても、近づけないように弾幕を張る。エンジンを撃たれたら終わりだ」

「しかし――」

「援軍が到着するまでだ!」

 神崎の厳しい命令に渋々うなずいた迷彩服が、壁のマイクでコックピットに減速の指示を伝えてからパネルを操作する。次第に扉が開いていく。扉の傍らには、M240機関銃が取り付けられている。強風と轟音が機内に溢れる。

 迷彩服がしゃがみ込んで銃を握った。だが、振り返って神崎を見るその眼にはまだ迷いがあった。

 神崎は迷彩服を鋭く睨んでいる。

 扉の先には、荒くうねる海面が見えていた。波頭は手で触れられそうに思えるほど、近い。レーダー網を避けてぎりぎりまで低空を飛行してきたのだ。ローターが巻き上げる海水が激しく吹き込む。と、スピードが落ちていく感覚があった。狭い視界の両側に、不意に二機のオスプレイが現れる。挟み撃ちにしようと急激に接近しているらしい。

 と、また機体が急激に傾いた。挟撃から逃れようと身をかわしている。オスプレイの巨体が、まるで遊園地のアトラクションのように激しく揺らぎ、旋回する。一度は上昇もしかけたが、機体は再び海面に張り付くように高度を下げた。扉の先に見える機体が一機に減っていた。一機は上昇し、こちらの頭を抑えているようだ。

 神崎が叫ぶ。

「これ以上接近させるな! 撃て! 撃つんだ!」

 迷彩服が応える。

「攻撃は厳禁されています!」

「威嚇で構わん!」

「いけません! 援護を待ちます!」

「間に合わん!」

「自衛隊は撃ってきません! 撃てません!」

「タワーではサーモバリックを使ったんだぞ! 撃たないという確証はない! 撃墜されたらどうする⁉ 何とか一機でも行動不能にしろ」そして、怯えたような迷彩服を引っ張って銃から引きはがした。「俺が代わる!」

 神崎は素早く身体を割り込ませて、銃を奪う。背後に着いてくるオスプレイに向ける。そして、ためらわずに引き金を引いた。

 けたたましい機関銃の連射音が機体に溢れる。

 迷彩服は、諦めたように肩を落とした。

 その瞬間だった。矢作の頭の中で〝声〟が叫んだ。

『矢作! 神崎! 追撃機を撃ったら、二人で殴り合え! 争う振りをして海に落ちろ!』

 女の声だ。〝社長〟――レディ・ドラゴンだということはすぐに分かった。

 矢作は思わず叫んだ。

「なんであんたが⁉」

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