コントロールセンターには実戦の緊迫感が張りつめていた。

 矢作が思わず上げた叫び声が通信機の小さなスピーカーから流れる。

『なんで周金幣がいるんだよ……ここは日本じゃないのか……?』

 神崎は通信機に命じた。

「その部屋に送金装置があるはずだ。探せ」

 黒服の声が入る。

『どのような装置ですか?』

「正確には分からない。だが、同様の機能を持つ装置を彼らが知っている。操作法はそこの女が詳しい。装置が発見できたら、起動させろ。起動が確認できたら、必要な情報を送る」

『見つからない場合、標的に〝喋らせる〟許可をいただけますか?』

「許可する。操作に不可欠な、生きたDNAはそこにある。そこの男のDNAが周の代わりになる。だから最悪の場合は本人は処分してもやむを得ない」

 矢作の怒声が飛ぶ。

『ふざけんな! 俺は日本人だ! 中国人と遺伝子が一緒のはずがないだろうが!』

 自分のDNAが周金幣と類似していることが納得できないようだ。

「一致しているのはほんの一部だ。だが、ジーンゲイトの指標は完全に満たしている」神崎の脇のポケットで、隊から支給されていた自衛隊仕様の秘匿携帯電話が鳴る。アンドロイドのスマートフォンだ。「質問はそこまでだ。すぐに送金装置を起動しろ。拒否すれば、何が起きるかは分かっているな?」

 神崎はスマホを取ってディスプレイを見た。タワー1の事務室に配置されている部下からだった。神崎は軽く舌打ちするだけで、通話に出ようとはしない。

 モニター画面を見ながらコンソールのキーボードを慌ただしく操作していた坂本伍長が叫んだ。

「神崎所長! 作戦が察知されました」

 神崎の表情が曇る。

「この電話はそれだ。予定より5分早い。どこが見抜いた?」

「仮眠室です。部屋を出ようとした隊員がドアが開かないことに気付いたようです」

「不運だな……。で、現状は?」

「異常が発生した情報が共有されたようです。タワー1の内部には約20名の隊員が分散して閉じ込められています。タワー2にはおよそ30名。敷地内の巡回に当たっている隊員は13名。それぞれ武器を携帯したまま集結を開始しました。おっと、下の通信室からのハッキングです。こちらのシステムを遮断する試みが開始されています」

「素早い反応だ。これまで、鍛えすぎたかもしれんな……」

「対抗手段は分かっています」

 坂本の目の前のモニターが、プログラムの表示に切り替わる。

 神崎がわずかに不安を見せてつぶやいた。

「扉のロックは保てるか?」

 坂本は慌ただしくキーボードを操作しながら答える。

「侵入は許しましたが、何とか押し返しています……畜生……誰だ、こいつ……手が早いな……」

 坂本の目が厳しさを増し、身を乗り出していく。モニターに何行ものプログラムが流れ、新たに書き込まれていく。制御室のコンピュータに侵入しようとする何者かと、電子の戦場で必死の攻防を繰り広げているのだ。

「何とか閉じ込めたままにしてくれ」

「もちろん。ですが、ケーブルを物理的に切断されれば、タワー1へのコントロールが効かなくなります」

「基地からの増援部隊が到着するまでおよそ15分か……」神崎は無線で矢作を守る黒服に命じた。「行動できる時間が短縮された。可能な限り急げ」

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