羽山宗王④
「――――どんな火力してるんだよ…………」
光線の斜線上は滑らかに切り出されて、綺麗な円形を描いている。
断面からビル内の配線や管が確認できた。
衝撃の跡地から金華猫だったものは居なくなっており、美波律子と対峙したころの静寂が帰ってきた。
「…………加茂。 これ以上進むつもりなら、木戸と美奈と合流しなきゃ。 とても私達で無力化できる相手じゃない」
音無の言うことは至極真っ当な事実に違いない。
単純な力比べで加茂は負けた上、二人とも索敵・調査に適した能力でありながら金華猫の身代わりに気づけなかった。
ましてやあの特大光線への対処法が見つからない限り、階段を登るのは自殺行為に過ぎないだろう。
「――――でもな。 俺達が逃げるとわかって見逃すほど、まだ寝ぼけてないと思うぞ」
最初に見た金華猫の牙は恐らく、遠隔操作の索敵要因だ。
自身の牙をいくつかに細分化して、ビル内に監視の目を張り巡らせたのだ。
今より地上に降りるまで、あれに出会わず安全に退避できる自身がない。
悲観的な想像の域を出ないが、やろうと思えば味方の誰かに姿を似せることも可能なはず。
「やるなら倒す方だ。 残ってる戦力を全部あいつにぶつければ勝機は十分に見える」
唯一懸念されるのは加茂自身の牙の限界点だ。
少し前にトエルブへ説明した牙の強化限度はとっくに突破してしまっている。
不思議なことにそれでも副作用は見られずむしろ体の調子が上がっていくのだ。
これは性能の低いモーターを連日フルスロットルで回しているようなもので、いつガタが来てもおかしくない。
できることなら短期決戦が望ましいだろうと、加茂は考えていた。
「…………!」
来る。
また上からだ。
見上げると、蜘蛛の巣の形をした金が降ってきた。
三次元的に形容すれば、それは金の鳥カゴだ。
「何でもありかよ……、――――音無!」
すでに反響定位で危機を察知していた音無は素早く退いていた。
結局、警告するため振り向いた分寸前で逃れる羽目になってしまった。
『今のを避けるか』
鳥カゴの上に立っていたのは金華猫。
先の病院服に違いはなく、目で本物か判別するのは困難だ。
(いや……!)
牙は永久不変。
あれが金華猫の黄金で人そっくりな性質を持っていたとして、強度だけは変えられないはず。
五感で頼れるのは触覚だけだ。
「金華猫……で、合ってるんだよな」
『愛らしい名だろう。 猫はどこにも出てこないが』
「…………間違いないみたいだな。 俺達にはお前を拘束する権利がある。 お前の本体の方をな」
『…………ほう?』
金華猫は二人を品定めするように、腕を組んで見下ろした。
『僕では役不足だな』
そう呟いて、掌を二人へかざした。
『僕の光線にはこの建物を破壊するに足りる威力がある。 避けても受けてもお前等は死ぬ。 僕は先の一撃でこの建物内を支配したのも同然なのだ。 そこで一つ、選別をすることに決めた』
攻撃が来る!
足に力を込めて、加茂は前方に跳躍した。
鳥カゴの縁を掴んで、スポーツクライミングのチャンピオンがホールドに飛び移るみたく上昇を兼ねた接近だ。
あの光線に対処法がない以上、とにかく下の仲間を巻き込まないように尽力するべきだと考えた結果の行動だ。
応急処置的な後手に回る考えだが、そもそも金華猫の光線は一定距離を放射状に、そしてある大きさに達すると拡大を止める。
攻撃を受けないために近づくのは、あながち愚策でもなかった。
『近づいてくるか』
収束した黄金が棒状に形成される。
鍔が細長い西洋剣に変化した。
『来い』
鳥カゴの上は平坦な円形台になっていて、頂点の少しすぼんだ円柱というのが全体図だ。
最上階から貫通した形跡が作る層状の景色は、さながら鳥カゴを闘技場に見立てたコロッセオのようである。
『少し遊んでやるとしよう』
「ほざけよ。 そんななまくら刀じゃ俺に刃は通らない」
『……? さっき言い聞かせただろう、これは選別だと。 切れ味は要らない。 真摯さは要らない。 僕の優位は揺るがない』
手首を巧みに回して、金華猫が剣を振った。
異常なまでの早さかつ、不規則な動作のせいで先端の軌道が見えない。
『時間はある。 この体も馴染んできた。 もう一度言ってやろう、遊んでやる――――とな』
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