サーティーン②
『――ナインス』
『あン? どったよ秘書サン』
ファーストから順に掛けていって、ようやく6番目にナインスが出てくれた。
『今どこにいます?』
『いつもンとこだよ』
『良かった、貴方まで講演会に行ったのかと』
『行くわけねぇだろぉ冗談はよしてくれよ。 ……なンだ? もしかしてマジに羽山宗王が出てくンのか?』
『まさか。 あの方は今もここの最上階にいらっしゃいます。 なのに教徒達とくれば……』
なんだかよくわからない馬鹿を一人残して、あとはみんな黒沢にある偽会場へ向かったなどと……。
『それだけ従順ってこった。 人のいねぇセントラルビルなンて、今後めったにお目にかかれるもンじゃねぇ。 なに、いざとなったら教祖サンに全部任せりゃ問題ねぇだろ』
『大ありだからこうして幹部達に連絡してるんです! 外注の警備員だって居なくなってるし……あぁ、もう嫌……』
『秘書サンよぉ、もっと状況をよく見てから物言いな。 今更そンなこと、ほんの些細な出来事にしかならねぇンだからよ』
『なん……何が言いたいんです?』
『一階が騒がしいからぁたまたま近くに居たフィフスのやつに向かわせたンだけどよ、トエルブを見つけたっつって通話切ってから音信不通だ』
フィフスがトエルブに会ってから行方不明?
もしかすると、二人ともその一階で何かあったのだろうか。
『羽山宗王が大事なら先入観を捨てるこった。 あんたは
フィフスとトエルブが二人で一階に向かったと思ってるみたいだけどよ、それは大きな勘違いだぜぇ』
『一階以外にどこへ行くというのです』
『そこじゃねぇって。 今から簡単に状況を纏めっから、牙なり何なり用意して降りてきな』
まず、セントラルビル一階の警備システムは他より厳重で、そこだけは専用の電気室、つまり個別の動力源で作動している。
『ンで、セントラルビルと電気室の入り口には"職員と部外者を識別するセンサー"と"人が出入りしたかだけを認識するセンサー"の2種類があンだ。 電気室は勿論ビルの内部だからな、どう誤魔化したってここのセンサーには必ず引っかからなきゃおかしい』
しかしセンサーは作動せず、敵の侵入を許してしまい、初動対応が完全に遅れた。
『ちょっと考えたンだがな、ここに入った奴らはそもそも、入り口から入ってねぇ。 まるで、ワープでもしたみてぇにな』
『シクス……』
『そ。 まさに適任が、ウチに居るわけだ。 しかもバッチリ音信不通。 さっき話したトエルブについても合点がいく』
『いや、そんなはず……だって、理由がないでしょう』
『私達はな。 知らねぇ間に、不満が溜まってたのかもねぇ』
『そんな……』
人生初めて、美波は文字通りに頭を抱えた。
フィフスが暴走して3人死んでから、まだ日が浅いというのに、今度はトエルブとシクスとセブンスの3人が離反するというのか。
まて、そうなると残りは……
『彼女らはどうしたんです』
『エイスとテンスかぃ? あいつらも駄目だ。 潰されたか、それとも……』
『……ふぁ、ファーストとイレブンは』
『ファーストも連絡なし。 イレブン、あいつは多分やられた。 一階の振動が消えたってことはぁそういうことだ』
……仮に、敵をトエルブら3人と仮定しよう。
そして、いま無事が確認できているのは私、美波律子とナインス、それとこの変な男。
「頭が痛い……」
順調に行けば、須藤癒乃は今日で完全に牙を使えるようになるはずなのだ。
それがこんな形で妨害されるなど……!
『……っと。 私ンとこにも、誰か来たみたいだ』
『ナインス! 一旦合流を最優先にしてください!』
『わかってるよ。 さっさとぶっ倒してぇ合流する』
『……ちょっと! ナインス!? せめて誰かくらいは説明を……』
美波の問いかけに、ナインスは応じない。
既に通話状態は解除されていた。
「あぁ……無理、吐きそう……」
「美波さん! せっかく誰もいないんですから遠慮なく吐いて大丈夫ですよ!」
「貴方が居るでしょう! 牙も持ってない役立たずの貴方が!」
「あぁ! 叱責の言葉も今は飛び跳ねるほど嬉しい! ところで牙ってなんです!?」
……しまった。
私としたことが、何も知らない一般人に牙の話を出してしまうとは……。
「いえ……なんでもないです」
ナインスのいる10階へ行こうとしたその時、美波はある1つの可能性に気づいた。
(――そう、そうだ。 私にはまだ牙がある)
まだセントラルビルが建っていなかったころ、いずれの勢力拡大に向けて未使用の牙を集めた事がある。
牙は普段、日用品や環境物に紛れていることが多く、発見段階で人に触れず運ぶことは難しい。
そのため、当時の羽山教の力では5つしか集めることができなかった。
内4つはフィフス、エイス、テンス、イレブンの4人に渡した。
……つまり、残りあと1つ。
「双國……でしたっけ、貴方……」
美波は振り返り、この日初めて、面と向かって双國を見つめる。
「……不本意ながら、もう、あなたに頼る他に道はない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます