リベリオン②

「エイス、交渉は君に任せたはずだが……」

「無理、ほんっとうに無理。 会話してるだけで鳥肌が立ってくる」


 トエルブとエイスが話し合っているのを、加茂達は事務所内の応接間で机を挟んで聞いていた。


「ふたりとも、結構苦戦したみたいだね」

卜部さんが腕組をして椅子にもたれかかった。


「セブンスと名乗った男、かなりの手練でした。 単純な剣の腕なら向こうが一段上です」

「僕はトエルブに全く歯が立たなかった。 エイスとの戦いで自身はついていたんだけど……」


 いくら牙のおかげで身体能力が上がっているとはいえ、加茂は格闘技には酷く疎い。

加々峰の剣技、エイスの足技を見ると、やはり牙の能力を最大限発揮するには使用主の戦闘能力向上も重要であると痛く実感する。


「失礼、卜部美奈。 手短に始めようか」

「オッケー、じゃあまずは、羽山教について知っていることを話してもらおうか」


 トエルブは屈託なく羽山教について語り始めた。

「もともと、羽山教は私を含めた5人で設立した新興宗教なんだ。 最初のうちは全ての業務を分担して行っていたけれど、構成員の増えた今は専ら牙の収集が主な仕事だ。 事務的な仕事は羽山宗王の側近に一任している」


 その側近の名は美波律子。

羽山教教祖、羽山宗王の秘書であり、素顔を隠す彼の代わりに表立って布教活動を行っているらしい。


「以前、幹部の人数について話したことがあった。 元々12人いた幹部達は、死んだか失踪したかで今は9人しかいない。 これは美波律子、羽山宗王を除いての人数だ」


 それを聞いて、卜部が指を折って数え始める。

「トエルブ、エイス、ファースト、セブンス……後は本部にいた竜崎って子で5人。 それだけ?」

「いや、あともう一人、6thシクスがいるが、事情があってここへは来ていない。 ……人と話すのが苦手なのだ」

「なるほどね……」


 リベリオンとFangsの対談は、その後も卜部を主導に進行していった。

エイスと初めて会ったあの日から、加茂が抱いていた羽山教への「得体のしれなさ」は、メッキが剥がれていくように少しずつ解消されていった。


「……俺たちは、羽山宗王が何を考えているのか、遠く理解に及ばない。 設立当初こそ羽山教の布教というおぼろげながら広く大きいゴールがあったが、須藤癒乃の誘拐に関する真意は美波律子と羽山宗王のみぞ知るところだ」

「つまり君たちリベリオンの目的は、須藤癒乃誘拐の目的を解明すること」

「いや、たとえ真相がわかったとて、俺たちは羽山教に帰るつもりはない。 要するに――」


 羽山教の解体。

トエルブらリベリオンは、完全な羽山教との決別を決意しているらしい。


「それは、具体的に案があってのことですか」

藤芝が聞いた。

トエルブは頷いて返す。

「羽山教は今や、県内に留まらず中国・四国にも影響力の大きい組織だ。 当然、近辺の政治家にはもれなく息がかかっている。 半端な工作ではすぐに隠蔽されてしまうだろう」


 羽山教という戦艦は、そう簡単には沈まない。

船底は厚く、主砲は大きい。

性能に差がある敵船を倒すにはどうすればよいか、答えは一つ。


「指揮官を叩いて船のコントロールを奪う。 潜入だ」

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