元アウトロー⑤
妖刀の妨害もあって、先ほどとは反転攻勢に藤芝の攻めが続く。
タイムリミットも残すところあと僅か。
少しずつ勝ちに近づいていく実感は、時に安心感として藤芝の足を引っ張る。
「なるほど。 これは強力な牙だ……」
セブンスが誰となく呟いた。
左の目から血が流れている。
だが。
相手が諦めない場合は別だ。
一撃重いのが刺さればそこでゲームオーバーの真剣勝負、油断が許される場面など一瞬もない。
セブンスの余裕綽々な表情が剥がれない以上、藤芝としても情けをかける余裕はなかった。
(最後はどうなるんだ? 死ぬのか?)
妖刀を振るうたびに考えることだが、藤芝自身への悪影響が行き着く先は一体どこなのか。
死か、それともこれは妖刀の試練なのか。
(私の牙は、誰が持ってもその悪影響を周囲に撒き散らす。 妖刀への耐性というアイデンティティがなければ私が牙を持っている必要はまったくない)
警察学校時代に剣道に勤しんだのは、ひとえに妖刀のため。
藤芝の人生は、妖刀を拾ってからというもの妖刀に尽くす人生であった。
今セブンスと死合っているのも、妖刀のタイムリミットを待つために時間を稼いでいるだけだ。
妖刀がなければ、とっくに斬られている。
妖刀がなければ…………。
「……もったいない、藤芝康平。 環境が悪い」
セブンスが刀を落とした。
もう前も見えていないだろうに、うなだれたまま、しかし藤芝を確かに捉えて、ゆっくりと壁にもたれかかった。
「刀を仕舞ってくれないか……? 君のと、私のとだ」
藤芝は言われた通りに刀を納め、隣りに座った。
セブンスが瀕死の状態でトエルブの牙が発動しないということは、もとより殺し合いが目的ではなく、当初の勧誘が本命であるということだと考えたからだ。
「……環境というのは国や組織の話じゃない、時代だ。 牙のある、現代」
「そうですか」
「今のスポーツには、使用する道具に細かい制限がある。 野球のグローブの大きさとか、サッカーのスパイクは材質や高さなどによって、使える使えないが予め制定してある」
簡単な話、道具によって生じる差をなくすためにそのようなルールを決めているのだが、昔にはこれがなかった。
「単に技術力が無かったことが一番の要因だろうが、それに加えてもう一つ、理由があると思う」
今と昔のスポーツにある違いとは、技術を競うか実力を競うかの差ではないかと、セブンスは語った。
「技術は現代の学問を超越した人類の知恵、という意味での技術だ。 スポーツ科学、とも言われている。 今のスポーツは、その技術力を競う戦いのように見えてならない。 つまり――――」
言葉が続かないので横を見ると、セブンスが消えていた。
トエルブの能力だろうが、なかなかどうして究極に間が悪い。
(――――でも、なんとなく、わかる気がする)
今の世の中は、セブンスの語ったスポーツのどちらにも当てはまる性質をもっている。
「牙」という圧倒的な技術力を以て作られた道具に対して、おおよそルールというものが存在していない。
もし、本当の意味で牙を使いこなせる人間がいるならば。
それはルールを定めることのできる人間だ。
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