魔法と体験
「それでは、魔法をお見せしますね」
心地よいそよ風が艶やかな銀髪を揺らし、髪を掻き分けようとするレイシアちゃんの姿が大人びて見える。
僕達は色々王都を見て回ったあと、少し離れた丘の上までやって来た。
一面は草が広がる草原。視界は凄く開けていて、王都の建物が一望できる。
ここなら、魔法を使ったとしても誰にも迷惑がかかることはないだろう。
レイシアちゃんも、ここでこっそり魔法の練習をしていたことがあるみたいだし、うってつけの場所だ。
「わぁー!」
僕はレイシアちゃんに向かって拍手を送る。
気晴らしのための口実だったけど、これはこれで楽しみだったからね。
夢の魔法!
男の浪漫!
異世界に来たら一度は憧れるもの!
僕は正直ワクワクが抑えきれなかった。
「ちなみに、タクトさんはどのような魔法をご覧になりたいのでしょうか? ある程度は使えますが、使えない魔法とかもありますし―――」
「辺り一面が焦土と化す魔法が見てみたい!」
「なんて魔法を見たがるんですか!?」
いや、主人公最強系だとそれぐらいの魔法は使っていそうだし……男ならド派手なのにちょっと憧れちゃうから。
「地形を変えてしまえば、流石の私でも怒られてしまいますよ……」
地形の心配をしているけど、できないとは言っていない。
もしかして、レイシアちゃんってかなり優秀な人なのではなかろうか?
「ちょっと見られないのはショックだけど……どうせだったら、色んな魔法とか見てみたいかな?」
「色んな魔法……となれば、違う属性の魔法でしょうか?」
「属性!?」
ビビッと! よく漫画やアニメであるような単語が出てきましたよ少佐!
「け、結構食いついてきますね……」
「もちろんっ! 属性って、火とか水とか風とかだよね!?」
「あら、ご存じなのですね」
いえ、アニメや漫画ではテッパンだったので知っているだけです。
「属性というのは、タクトさんの仰った火、水、風に土、光、闇という魔法の色を現したものです。色というのは自身が持っている魔力の性質みたいなもので、魔力の色を変えることによって属性に適した魔法を扱うことができます」
「ふむふむ……」
つまり、自分の持っている魔力の色を変えればその色に合った属性の魔法が使えるってことだね。
……色を変えるって、結構難しそうだけども。
「初めて魔法を扱う人にとって、最初の難関は魔力の色を変えるという部分です。魔力の扱いに慣れていないと、色を変えるのにも一苦労ですから」
「確かに、僕も聞いて「色を変える? どうやって?」って感じだからね」
「ですが、人は元から魔力の色をすでに持っているのです。それが適正属性と呼ばれるものですが―――」
レイシアちゃんは僕の前に手を突き出すと、小さく「ウォーター」と呟く。
すると、手のひらに小さな水の塊が現れた。
「おぉ!」
「私の適正属性は水です。故に、魔力の色を変えなくとも水属性の魔法は使えます」
いや、変えたか変えなかったか分からないよ。
(でもなるほど、水か……レイシアちゃんのイメージにピッタリな気がする)
銀って、水か氷のイメージがあるし。レイシアちゃん、銀髪だし。
「そして、魔力の色を変えられれば―――」
レイシアちゃんのもう片方の手に火の塊、両手の真ん中には土の塊が出現した。
「こうして、色々な属性の魔法が扱えますね」
何もない場所から何かが現れる。
日本にいたマジシャンでも、こんな芸当はできないだろう。
だからこそ、あり得ないものができているという未知に、思わず興奮してしまう。
僕は食い入るように現れた土の塊と日の塊を凝視し、瞳を輝かせた。
「凄い、凄いよレイシアちゃん! これが魔法……凄いっ!」
さっきから凄いしか言ってないけど、本当に凄いのだから仕方ない。
エイフィアや魔女さんが使っているところをみたことはあるけど、こうしてマジマジ近くで見たのは初めてだ。
男は魔法を見て興奮してしまうもの……うん、仕方ない仕方ない。
「ふふっ、魔法を見てそこまで喜んでくれる人は初めてです」
「だってしょうがないじゃん! 魔法だよ、魔法! 僕にとっては全部未知なんだから!」
「これは全て初級の魔法で、あまり褒められはしないのですが……そう言ってもらえると嬉しいものですね」
こんな凄いことをしておいて褒められない?
確かにド派手じゃないかもしれないけど、魔法を扱えるだけ凄いことのはず。
今の異世界でも、魔法を扱える平民っていないわけだし……レイシアちゃんの取り巻く環境、辛辣じゃないだろうか?
「よろしければ、タクトさんも魔法を使ってみますか!?」
「いいの!?」
「はい。といっても、初級の簡単な魔法だけですが」
「全然! それだけでも!」
僕はレイシアちゃんの提案に興奮を隠し切れない。
尻尾があれば、今頃ブンブンと振り回している頃だろう。
「あ、でも使い方が分からないや」
「そこは私がお教えしますよ」
そう言うと、レイシアちゃんは徐に手を握ってきた。
フッ……女性経験皆無な今までの僕は異性から手を握られただけでドキドキしていたけど、今日の僕は違う。
何せ、今日一日ずっとレイシアちゃんの手を握っていたんだから!
今更握られたところで、おかしな反応は———
「あの……お顔が真っ赤みたいですけど」
―――していないに決まっているじゃないか!
「今日は日差しが強いからね」
「そ、そういうものでしょうか……?」
多分そういうものじゃないけど、そういうものにしてほしい。
「ごほんっ! では、さっそく始めてしまいましょう」
「そういえば、僕って魔法も魔力の使い方も分からないんだけど……」
「魔法は先程見た魔法をイメージして呪文を唱えるだけです。魔力の扱いは……私がお教えします」
レイシアちゃんは唐突に目を閉じ始めた。
だから僕も、続くように目を閉じる。
「適正属性は、使いつつ探っていきましょう。まずは、私がお送りする魔力を感じてください」
そう言うと、繋がれている手の間から温かい何かが流れてくる感じがした。
……もしかしなくても、これが魔力だろうか?
「そうです、それが魔力です。あとは、今感じたものを外に吐き出すようにしながら詠唱すれば魔法は完成します」
えーっと、魔法はイメージしながら詠唱すればいいんだよね。
(イメージ、イメージ……レイシアちゃんが出したような水をイメージ───)
僕はさっき見た魔法を頭で想像すると、温かいものを外に吐き出すように動かす。
そして───
「ウォーター!」
僕の手のひらに、水の塊が浮かび上がった。
(こ、これが魔法……ッ!)
僕は手のひらに浮かび上がる水の塊を見て息を飲む。
目の前にある光景を、自分の手で作り出したことに驚きを隠しきれなかった。
「ふふっ、どうですかタクトさん? 始めて魔法を使った感想は?」
「す、凄い……凄いよレイシアちゃん!」
僕はレイシアちゃんの両手を強く握る。
せっかく現れた水の塊が地面に落ちるけど気にしない。
子供みたいにはしゃいだ感じに見えるだろう。しかし、僕はそれほど感動していた。
「そう喜んでいただけると、こちらまで嬉しくなりますね」
「喜ぶよ! だって初めての魔法だよ!? そりゃ、僕だって興奮───」
でも喜びを伝えようとした途中、ふと体に違和感を覚えた。
(あ、れ……力が入らない……)
握っている手も握ることすらできなくなり、支えてくれている足も全然踏ん張ってくれない。
更には、なんか意識が遠くなっていっているような気がした。
「タクトさんは水属性に適した魔力を持っているみたいですね」
レイシアちゃんの声が、どんどん遠くなっていく。
(これ、ちょっとやばいかも……)
「私と同じ属性というのも、何か嬉しい……タクトさん?」
僕の違和感に気がついたレイシアちゃんが心配そうに声をかけてくる。
だけど僕は「なんでもないよ」という男の虚勢すら張れず、そのまま崩れ落ちてしまった。
「タクトさん! 大丈夫ですかタクトさん!?」
レイシアちゃんの顔が朧気に視界に映る。
───それからすぐに僕の意識は落ちた。
でも不思議と、嫌な感じはしなかった。
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