レイシアちゃんとお出かけ③
次にレイシアちゃんとやって来たのは、王都の繁華街から少し離れた場所にある庭園だ。
色鮮やかな花に植物、中央には大きな噴水が置かれていて、天井まで壁草に覆われ空気が美味しく感じる。
敷地かなり広く、学校のトラック一周分はあるんじゃないかって思うぐらい。
エイフィア曰く、ここはエルフの職人さんが管理している庭園で、各国からの植物や花を集めた珍しい場所なんだとか。
教えてもらった紙にも「綺麗なお花を見て心を洗おう♪」って書いてあった。
……。
…………。
………………。
……僕、こんなこと書いてないはずなのに、どうして書かれてあるんだろう? 大きく赤で丸が付けられているし。
もしかしなくても、エイフィア……勝手に見て書いたな?
(それにしても……)
庭園に入って、僕は感じた。
色とりどりの花達に心が癒され、自然の澄んだ空気で心が洗われる。
仲睦まじく手を繋ぎ抱き合うカップルを見て心が荒んでいく。
極めつけは、愛の言葉を投げかけ合う男女。
荒んでいた心は粉々に砕かれ、心だけでなく脳にまでドス黒い嫉妬心が流れ込む―――
「レイシアちゃん、マッチ。マッチを貸してほしいんだ」
「燃やす気ですか!?」
そうだ、燃やしてしまおうこんな庭園。
心を洗いに来たのにもかかわらず、一歩中に入ればイチャイチャイチャイチャするカップルが視界に入ってくる。
ここで何を洗うっていうんだ。
洗うどころか黒いペンキで塗り潰されているような気しかしないよ。
「エイフィアめ……なんて場所を僕にオススメしたんだ! これじゃあ、数多のリア充に無意識マウントを取られるだけじゃないか!」
「え、えーっと……りあ、じゅう? とやらは分かりませんが、私達は何もされてはいませんよ?」
「いーや、違うねレイシアちゃん。僕達はすでに攻撃されているよ。仲がいいですよマウント、愛し合う者がいますよマウント、独り身ではできないだろうマウント……今僕達は、マウントの嵐の中に放り込まれているんだ!」
なんてことだ……足を踏み入れただけなのに、マウントのボディーブローが炸裂している。
「ですが、先程からこちらに向かって「羨ましい」という言葉が聞こえていますよ? マウントを取られているといいますが、私達ももしかしたらしているのではないでしょうか?」
「ふむ……」
僕はレイシアちゃんに言われて耳を澄ました。
確かに「あんな可愛い子となんて」、「俺の彼女より可愛いじゃねぇか」、「頓死しろ」などという言葉がたまに聞こえてくる。
これは、レイシアちゃんが可愛いから……僕に嫉妬しているということだろうか?
まぁ、手を繋いでいるし傍目から見ればカップルに見えなくもないけど———
「僕達、恋人じゃないんだよぁ……」
手は繋いでいるけど、その先はNG。
マウントを取られていると思っているかもしれないけど、君達の方が十分にマウントが取れるんだよ……けっ。
「そ、そうですね……」
レイシアちゃんが頬を染めて握っている手をにぎにぎしてくる。
ちょっとくすぐったい。忘れかけていた「女の子と手を繋いでいる」という緊張がぶり返してきそうだ。
「そういえば、この庭園って数本だけなら花を持って帰っていいみたいだよ」
「そうなんですね。ですが、持って帰ってもすぐにしおれてしまいそうです」
「っていうことがあるから、押し花にしてもらえるサービスもやってるみたい。栞とかコースターとかにするためにね」
押し花にするんだったら、しおれて枯れちゃうって心配もない。
わざわざダッシュで家に帰って活ける必要もないからね。
「ふふっ、そういうことであればせっかくなので何本かいただいて帰りましょうか」
「そうだね」
レイシアちゃんが僕の手を引いて歩き出す。
その際、チラリと首元に見えたチョーカーがどこか新鮮さを感じさせた。
(うーん……本当に似合ってるなぁ)
さっきのお店で買ったチョーカーだけど、レイシアちゃんは着けてくれている。
何でも、レイシアちゃんはどうしても今日は着けておきたいのだとか。
プレゼントした側からすれば、ちゃんと着けてくれているのは嬉しい以外の何物でもないからいいんだけどさ。
「タクトさん、この花などいかがでしょうか?」
そんなことを思っていると、レイシアちゃんが足元にある花を指差した。
どこか薔薇の形に似ているような黄緑色の花。
茎には薔薇みたいな棘はないけど、その代わりに何枚もの花弁が集まり、奥に行くほど色合いが濃くなってグラデーションを見せていた。
「へぇ……綺麗だね」
「アマツバナという植物です。南部の地方でしか咲かない花みたいですね」
ご丁寧に、花の下にはちゃんと花の説明が書かれてあった。
こういうのを見ていると、植物園に来ているような感覚になってくる。
「これもレイシアちゃんに似ている色だね」
「えっ?」
「ほら、黄緑色……レイシアちゃんの綺麗な瞳と同じ色だ」
僕は一本摘んでレイシアちゃんの顔の横に近づける。
ライトグリーンの瞳と、アマツバナの色合いが本当にピッタリだ。
「じ、自分ではよく分かりません……」
「いつも鏡で見ていても、そういうのってよく分からないっていうよね」
僕は摘んだ花をポケットに入れる。
「僕はこれにするよ」
「もう決めてしまわれるのですか?」
「うん、これをコースターなんかにしたら、いつでもレイシアちゃんがいてくれるような気がして……ちょっとほしくなっちゃったんだ」
「〜〜〜ッ!?」
レイシアちゃんが耳まで真っ赤になった。
もしかして、流石に今の発言は気持ち悪かったかな?
まぁ「いつでもいてくれるような気がする」って、結構ストーカーみたいな発言だからね。
……今度から気をつけよう。
レイシアちゃんに「気持ち悪い」って思われたら、数日は寝込むよ。
「わ、私もタクトさんの色のお花を探しますっ!」
「ん? あれ、どうして?」
「それは……私も、ずっとタクトさんがいてくれるって思えるようなお花がほしいからです!」
「そ、そっか……」
レイシアちゃんの勢いに押され、思わず相槌を打ってしまう。
そして、僕はレイシアちゃんに引っ張られながらその場をあとにした。
───これは余談なんだけど、どうしてか庭園を回っている最中に「羨ましい」、「頓死しろ」「イチャイチャしてんじゃねぇよ」っていう陰口がめちゃくちゃ聞こえてきた。
君達の方が全然先に進んでいるはずなのに……というより、お隣の彼女さんに聞こえたらマズいんじゃないの?
まぁ、ともかく一個だけ───
僕はマウントを取った覚えが一度もないです。
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